インサイダー脅威とは、組織の内部から生じるセキュリティリスクを指します。一般的に、従業員や請負業者、信頼できるパートナーが、意図的かどうかにかかわらず、付与されたアクセス権限を悪用して損害をもたらすことで発生します。
目次
多くのサイバーセキュリティ対策は外部からの侵入防御に主眼を置いていますが、インサイダー脅威は組織の内側から静かに、そして多くの場合、予兆なく顕在化します。これらの脅威は、システムやデータ、施設への正当なアクセス権限を持つ個人が関与するため、故意か過失かを問わず、甚大な被害をもたらすリスクを秘めています。
インサイダー脅威は「信頼」という防壁の内側で活動するため、極めて危険です。外部の攻撃者のようにファイアウォールを突破する必要がなく、日常業務のために付与されたツールや権限を悪用して、検知を回避しながらネットワーク内を操作できるからです。
多くの組織、とりわけハイブリッドワークの導入やデジタルインフラの複雑化が進む環境では、内部ユーザの活動に対する可視性が不十分なケースが少なくありません。この可視性の欠如がインサイダー脅威を許容する盲点となり、重要なシステムや機密情報が悪用されるリスクを増大させています。
企業は、全社的な説明責任や警戒心、サイバーセキュリティ意識を醸成する職場環境を築かなければなりません。こうした土壌がなければ、悪意のない従業員であっても、意図せず組織をリスクにさらす可能性があります。
内部関係者の定義
内部関係者には、以下の個人や組織が含まれます。
現職従業員(IT、人事、財務など)
アクセス権を保持したままの元従業員
サードパーティの請負業者
ビジネスパートナーやベンダー
インターンや臨時従業員
インサイダー脅威は、動機や権限、活動内容によってさまざまな形態をとります。これらの類型を正しく把握することは、潜在的な脅威を早期に特定し、適切に対処するための第一歩となります。
悪意のある内部関係者
組織に意図的な損害をもたらす内部関係者です。動機は復讐や個人的な利益、競合他社への加担など多岐にわたります。こうした人物は、監視の目をかいくぐる手法に精通していることが多く、脅威の影響はさらに深刻化します。
機密情報の窃取や記録の偽造、業務妨害、マルウェアの混入などを行うリスクがあります。場合によっては、侵害後も数ヶ月間にわたり休眠状態で潜伏し、長期間にわたってアクセス権を維持し続けることもあります。
不注意な内部関係者
悪意のない従業員や請負業者が、意図せずセキュリティを侵害してしまうケースです。フィッシングメールを誤って開封する、あるいは機密データの取り扱いミスなどが原因となります。
インシデントの多くは悪意によるものではなく、操作ミスやトレーニング不足といった「不注意」が原因です。しかし、その結果としてもたらされる被害は、意図的な攻撃と同等に深刻なものとなる可能性があります。
セキュリティ侵害を受けた内部関係者
インサイダー脅威の一つとして、フィッシングやマルウェア、ソーシャルエンジニアリングなどを通じて、外部の攻撃者が正当なユーザの認証情報を窃取・悪用するケースがあります。攻撃者は「信頼されたユーザ」になりすまし、組織の内部リソースへアクセスします。
これは、正規のアクセス元からの通信を装うため、従来の対策では検知が極めて困難な脅威です。利用パターンのわずかな異常を捉えるには、高度な行動分析が必要不可欠となります。
共謀による脅威
インサイダー脅威における「共謀」とは、内部関係者が外部の攻撃者や犯罪グループと手を組んでいる状況を指します。この脅威は通常、金銭的利益や強迫を目的としており、内部関係者が持つ組織固有の情報と外部のリソースが結び付けられます。内部関係者の広範なアクセス権限と外部のスキルが組み合わさることで、標的を絞った極めて破壊的な攻撃へと発展する恐れがあり、組織にとって非常に厄介な脅威となります。
内部関係者は正当な権限を持ち、組織のシステムやポリシー、脆弱性を熟知しているため、その活動を検知することは容易ではありません。
2023年のPonemon Instituteによる調査では、平均損害額は1件あたり940万ポンドに達しています。
タイプ
主な影響
具体例
不注意な内部関係者
平均損害額:940万ポンド
従業員がパブリッククラウド上で機密ファイルを誤って共有
悪意のある内部関係者
知的財産の窃取、法規制違反による罰金
退職直前のエンジニアによるソースコードの持ち出し
セキュリティ侵害を受けた内部関係者
外部攻撃者の侵入起点
フィッシング被害により、攻撃者に内部アクセス権を許容
英国で発生した著名な事例は、インサイダー脅威がいかに深刻な損害をもたらすかを物語っています。
従業員が収蔵されていた古代遺物を窃取し、一部を損壊させたとされる事件です。この人物は、内部アクセス権や在庫管理の不備を突き、自身の立場と権限を長期にわたって悪用していました。
元英国陸軍兵士が、ワンズワース刑務所の管理制度や手順に関する内部知識を駆使して脱獄しました。正当なアクセス権と専門知識を持つ人物がいかに大きな脅威となり得るかを示す一例です。
英国のNCSCは、インサイダー脅威が重要インフラに対する重大な懸念事項であると強調しています。エネルギー企業の元請負業者が、退職時のアクセス権削除の漏れを突き、業務妨害を試みた事例もあります。これは、離職時の徹底したアクセス管理がいかに不可欠であるかを示唆しています。
組織の健全性を保つためには、以下の主要な規格やガイドラインへの準拠が推奨されます。
NIST内部脅威軽減フレームワーク:この米国ベースのモデルは世界中で広く参照されており、内部リスク対策プログラムを構築するための体系的なアプローチを提供します。
ISO/IEC 27001:ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の国際標準規格であり、インサイダーリスク管理や監査対応に関する要件が盛り込まれています。
NPSA(旧CPNI)インサイダーリスク軽減ガイダンス:英国の国家保安安全保障局(NPSA)が提供する、重要インフラ部門などを対象としたインサイダー脅威の特定・軽減に関する詳細なガイダンスです。
サイバーエッセンシャルズおよびサイバーエッセンシャルズプラス:アクセス制御や監視、システムの要塞化におけるベストプラクティスを推奨する、政府支援のセキュリティ認定スキームです。
各種基準への準拠に加え、組織内での実効性のある慣行が不可欠です。
明確なインサイダー脅威ポリシーの策定:インサイダー脅威の定義を明確にし、報告プロセスやポリシー違反時の罰則などを規定します。
防御策の継続的な検証と更新:レッドチーム演習や監査、インシデントシミュレーションを通じて、実効性のあるシナリオに基づき防御能力を評価・改善します。
部門横断的な連携の推進:人事や法務、IT、コンプライアンスなどの各部門が連携し、包括的なインサイダーリスク対策を構築します。
心理的安全性の確保と報告文化の醸成:報復を恐れることなく不審な兆候を報告できるよう、従業員をサポートする体制を整えます。
インサイダー脅威は、組織が信頼しているユーザから生じるため、見極めが困難です。しかし、行動やシステム利用状況のわずかな変容が、重大なインシデントの前触れであることも少なくありません。
機密システムへの不自然なアクセス、とりわけ業務時間外のログインは、有力な手がかりとなります。自身の担当外のデータへのアクセスや、外部ストレージ・クラウドへの大量のデータ転送は、意図的か否かを問わず情報漏洩の前兆である可能性が高いと言えます。
セキュリティ製品の無効化やポリシー違反の反復、また降格や退職といった「職場での負の出来事」の直後の不審な行動にも注意が必要です。正当な理由のない権限昇格の要求や、制限区域への侵入試行なども警戒すべき兆候です。
これらの予兆を早期に捉え、特に行動分析技術を活用して可視化することが、致命的な被害が生じる前にインサイダー脅威を封じ込める鍵となります。
インサイダー脅威のリスクを最小化するには、まず「最小権限の原則」を徹底することが基本です。あわせて、UEBA(User and Entity Behavior Analytics)やPAM(Privileged Access Management)といったソリューションを導入することで、特権の不正利用をリアルタイムで検知・抑制することが可能になります。
徹底したオフボーディングプロセスの確立も重要です。離職時には即座に全アクセス権限を無効化しなければなりません。
継続的なセキュリティ教育も不可欠です。インサイダー脅威の性質や警戒すべき点を従業員が正しく理解することで、組織全体の防御力が高まります。透明性が高く説明責任を重視する職場環境は、不審な兆候の早期発見・報告を促進する土壌となります。
また、SIEM(Security Information and Event Management)などの監視テクノロジーと、行動分析から得られるインサイトを融合させることで、迅速な脅威対応と被害の未然防止を実現できます。
インサイダー脅威の理解は第一歩にすぎません。実効性のある防御を築くには、適切なテクノロジーの導入が不可欠です。Trend Vision One™は、深刻な被害が生じる前にリスクの高い行動を検知するための可視性と分析能力を提供します。
Trend Vision Oneは、エンドポイントやクラウド、メール、アイデンティティなどの各レイヤから収集したアクティビティを相関分析し、従来の対策では見過ごされていた内部リスクを顕在化させます。過失や悪意、アカウントの侵害など、脅威の背景を問わず、迅速に対処するためのインサイトを導き出します。
巧妙化するインサイダー脅威に対し、Trend Vision Oneは脅威インテリジェンスと自動化技術によってセキュリティチームを支援し、プロアクティブな防御を実現します。
プロダクトマネジメント担当バイスプレジデントのScott Sargeantは、サイバーセキュリティとIT分野で25年以上にわたりエンタープライズクラスのソリューションを提供してきた、経験豊富なテクノロジーリーダーです。
組織内部の従業員や関係者が、意図的または不注意により、正当なアクセス権限を悪用して組織に損害を与えるセキュリティリスクを指します。
「悪意のある内部関係者」「不注意な内部関係者」「セキュリティ侵害を受けた内部関係者」「共謀による脅威」の4つが挙げられます。
不自然な時間帯のアクセスや大量のデータ転送、不審な挙動に留意してください。監視ツールやアクセスログの分析を通じて、リスクの早期発見に努めることが重要です。
権限の最小化(アクセス制御)と活動の監視、継続的なトレーニング、そして実効性のあるセキュリティポリシーの運用を徹底してください。
セキュリティインシデント全体の約20~30%をインサイダー脅威が占めており、多くの組織にとって回避できない重要課題となっています。