サイバー攻撃の高度化に伴い、従来のウイルス対策ソフトだけでは防ぎきれない脅威が増えています。こうした中、セキュリティの専門家が24時間365日体制で監視・検知・対応を行う「MDR」が注目を集めています。
この記事では、MDRの仕組みや導入メリット、EDRやSOCとの違い、そしてMDR選定時のポイントについて解説します。
MDR(Managed Detection and Response)とは、外部の専門ベンダーがサイバー攻撃の検知から対処までを代行するマネージドサービスです。単なる監視だけでなく、インシデント発生時の対処を支援したり、脅威の分析までを包括的に提供したりする点が特徴です。自社にセキュリティ人材がいなくても、高度な脅威対策を実現できます。
MDRが対象とする領域は多岐にわたり、マルウェアや不正アクセスといった既知の脅威の監視に重点を置くサービスもあれば、正規ツールを悪用した高度な標的型攻撃に対処するサービスもあります。検知と初期対応をアウトソーシングすることで、組織内の担当者はより優先度の高い業務に集中できるようになるでしょう。
近年、サイバー攻撃の高度化により、脅威の侵入を100%防ぐことは困難になっています。加えて、警察庁の統計が示すとおり、サイバー犯罪の検挙数は年々増加しており、企業や組織が直面するリスクは拡大しています。被害を最小限に抑えるためには、侵入後の検知の速さと適切な対処がこれまで以上に重要です。
■サイバー犯罪の検挙数の推移
※出典:警察庁「サイバー空間をめぐる脅威の情勢等」(2025年3月)
このような背景から、予防策に加え、脅威を迅速に特定・対応できる体制の構築が求められています。その中核となるのがSOC(Security Operation Center)です。SOCとは、ネットワークやログを常時監視し、サイバー攻撃や不審な挙動を検知・分析し、インシデント対応を行う専門組織を指します。
一方で、セキュリティ人材の不足により、24時間365日の監視体制を自社で構築・運用することは容易ではありません。専門知識を持つ人材の確保や継続的な運用には、大きなコストと負荷が伴います。
こうした状況を背景に、専門家の知見と運用体制をサービスとして活用できるMDRへの需要が高まっています。
参考:
・SOC(Security Operations Center)とは?セキュリティにおける役割を解説
MDRは、エンドポイント上の不審な挙動を検知・可視化するためのセキュリティツールである「EDR(Endpoint Detection and Response)」製品やネットワーク監視ツールを顧客環境に導入し、そこから収集されるログや挙動データを専門家が分析するサービスです。AIや機械学習による脅威検知と、アナリストの知見を組み合わせることで、誤検知を抑えながら検知精度を高めます。また、SOCを備えたベンダーが、24時間365日体制で監視・運用を行う点も特徴です。
参考:
・EDRとは?仕組みや導入効果、EPP・XDRとの違いをわかりやすく解説
■MDRサービスの仕組み
MDRの具体的な流れは、以下のとおりです。
<MDRの基本的な流れ>
1. 顧客環境のエンドポイントやネットワークから、ログや挙動データを継続的に収集
2. 収集したデータをベンダーに送信
3. AIによる自動分析と、セキュリティアナリストによる精査を実施
4. 異常が検知された場合、影響度や緊急度を評価
5. 必要に応じて、封じ込めなどの対処を実行・支援
MDRは、検知・分析から対応、運用改善までを一貫して支援するサービスです。以下では、MDRが提供する3つのサービス範囲について解説します。
MDRでは、エンドポイントやネットワークの挙動を常時監視し、マルウェアの侵入や不審な振る舞いを検知。検知したアラートは専門家が分析し、脅威の深刻度を評価します。誤検知を排除することで、真に対処が必要なインシデントに絞って対応可能です。
MDRはインシデント対応の支援も行います。脅威が確認された場合、端末の隔離やプロセスの停止、マルウェアの駆除といった初動対応を代行または支援。迅速な封じ込めにより、被害の拡大を防ぎ、復旧までの時間を短縮します。
MDRサービスでは、検知・対応したインシデントをもとに、定期的なレポートを提供。脅威の傾向分析や運用状況を可視化するとともに、セキュリティ体制の改善提案を行い、継続的なセキュリティレベル向上を支援します。
MDRの導入にはさまざまなメリットがあります。ここでは、代表的な4つのメリットについて解説します。
MDRを導入するメリットのひとつが、セキュリティ分野に精通した専門家の知見を活用できる点です。最新の脅威情報(スレットインテリジェンス)や実際のインシデント対応経験をもとに分析・判断が行われるため、未知の脅威や高度な攻撃にも適切に対応できます。
また、自社内では対応が難しい高度な分析や判断も、専門チームによる支援を受けられるため、検知精度や対応スピードの向上が期待できます。
24時間365日の監視体制を確保できる点も、MDRを導入するメリットです。サイバー攻撃は時間帯を選ばず発生するため、夜間や休日を含めた常時監視は、被害を防ぐうえで欠かせません。
担当者が不在になりやすい業務時間外を狙われるケースも多くあり、MDRを導入することで、自社の体制に左右されることなく、継続的な監視と迅速な対応が可能になります。
自社でSOCを構築・運用する場合と比べ、運用コストを抑えられる点もMDRのメリットです。SOCの構築には、専門人材の採用や監視ツールの導入、運用拠点の整備など、多額の初期投資と継続的なコストが発生します。
MDRは、ツールの運用・保守をベンダーに任せることで社内の運用負荷軽減にもつながります。
MDRと混同されやすい概念として、SOCとMSSがあります。これらはいずれもセキュリティ対策に関わる用語ですが、役割や提供範囲は異なります。
ここでは、まず各サービスの違いを一覧で整理したうえで、それぞれの違いを詳しく解説します。
■MDR・SOC・MSSの違い
| 概要 | 主な役割 | 特徴 | |
|---|---|---|---|
| MDR | マネージドサービス | 脅威の検知・分析・対処 | ツールと専門家を組み合わせ、対応まで包括的に提供 |
| SOC | 組織・拠点 | セキュリティ監視・分析 | 検知・分析・通知が中心、対処は顧客側が担うことが多い |
| MSS | マネージドサービス | セキュリティ製品の運用代行 | 監視・保守が中心で、脅威対応は限定的 |
参考:
・MSSとは?メリットやMDRとの違いを解説
・マネージドセキュリティサービス(MSS)の基本 ―メリットと選定のポイント―
SOCは、セキュリティ監視やログ分析を行うための組織・拠点を指し、社内に設置される場合と、外部に委託される場合があります。一方、MDRはこれらの機能をサービスとして提供し、検知後の対応までを専門家が担う点が違いです。
SOCでは、脅威の検知や分析、アラートの発報といった監視・判断の役割を担うのが一般的で、インシデント発生後の封じ込めや復旧など実際の対処は、別の担当部門や運用体制が対応するケースが多く見られます。これに対し、MDRでは封じ込めや隔離といった対処までを含めて実行されるため、判断から対応までのリードタイムを大きく短縮できます。
MSS(Managed Security Service)は、ファイアウォールやIDS/IPSなどのセキュリティ製品の監視・運用を代行するサービスです。一方、MDRは脅威の検知と対応を中核とするマネージドサービスです。
MSSは製品の安定運用を目的とするのに対し、MDRは実際のサイバー攻撃への対処に重点を置いている点が異なります。そのため、インシデント発生時の初動対応や被害抑止までを求める場合には、MDRが適した選択肢となります。
多くのMDRサービスはEDRを中核としていますが、近年ではNDR(Network Detection and Response)を主に活用する、MNDR(Managed NDR)と呼ばれるサービスも見られます。MNDRはネットワーク上のログにもとづいて脅威を検知し、対応するのが特徴です。
さらに最近では、XDR(Extended Detection and Response)を中核とするMXDR(Managed XDR)も登場しています。XDRはエンドポイント、ネットワーク、クラウド、メールなど、より広範囲のセキュリティレイヤーからデータを収集・統合する技術です。MXDRでは、より広範囲のレイヤーから挙動データを収集・分析することで、脅威検知の精度を高めることができます。
従来はエンドポイントのみ、あるいはネットワークのみといった単一レイヤーでの監視が主流でしたが、MXDRでは複数レイヤーの情報を相関分析することで、より高度な脅威も検知することが可能です。攻撃者が複数の侵入経路を組み合わせる現代において、MXDRのような包括的なアプローチの重要性は増しています。
MDRサービスを選定する際には、運用内容や支援範囲を踏まえて慎重に比較する必要があります。ここでは、MDR選定時に確認しておきたいポイントについて紹介します。
MDRサービスを選ぶ際には、監視対象が自社のIT環境に適しているかを確認しましょう。MDRといっても対応範囲はサービスによって異なるため、エンドポイントだけでなく、ネットワークやクラウド環境までカバーしているかは重要な判断材料です。
あわせて、インシデント発生時の対応範囲も確認が必要です。通知のみか、隔離や駆除まで代行するかはベンダーによって異なります。また、既存で導入済みのソリューションを活用できるかどうかも、コストや導入のしやすさに影響するため重要なポイントといえます。
MDRの品質は、専門知識を持つアナリストチームのスキルや経験、そしてそれを支える運用体制に左右されます。アナリストの経験や資格に加え、24時間365日の有人監視体制が整っているかを確認しましょう。
国内拠点の有無や、日本語でのサポート体制も重要です。インシデント発生時に、迅速かつ円滑なコミュニケーションが取れるかどうかは、初動対応のスピードや対応品質に大きく影響します。
定期レポートが、経営層への報告にも使えるわかりやすい内容かを確認します。検知結果だけでなく、脅威の傾向やビジネスへの影響が整理されていることが望ましいでしょう。
また、継続的な改善提案や定例的なコミュニケーションの場が用意されているかも重要なポイントです。単なる運用代行にとどまらず、セキュリティレベルの向上を支援してくれるベンダーを選ぶことが重要です。
サイバー攻撃が高度化・巧妙化する中、すべての脅威を事前に防ぐことは難しくなっています。こうした状況において、MDRは専門家による監視と対処をアウトソースできる有効な選択肢です。セキュリティレベルの向上と運用負荷の軽減を同時に実現できる点は、多くの組織にとって大きなメリットと言えるでしょう。
トレンドマイクロが提供する「Trend Service One™ Complete」は、MDRを中核とした包括的なセキュリティサービスです。24時間365日の監視体制により脅威の侵入や侵害を早期に検知し、必要に応じて専門家が迅速な対応を支援。また、年間を通じた計画的なセキュリティ運用の支援や、重大なインシデント発生時の調査・復旧支援など、運用面まで含めたサポートが提供されます。
これらのサービスは、AIを活用した法人向けサイバーセキュリティプラットフォーム「Trend Vision One™」を基盤としています。エンドポイントやネットワーク、クラウドなど複数のレイヤーから収集した情報を相関分析することで、脅威の早期検知と迅速な対処が可能です。MDRの導入をご検討の際は、トレンドマイクロへご相談ください。
MDRは「マネージドサービス」であり、EDRは「製品・ツール」である点が最大の違いです。EDRを導入しても、アラートの分析や対処は自社で行う必要がありますが、MDRはEDRを含むツール群の運用・監視・対処までを専門ベンダーにアウトソースする形になります。MDRサービスでは、EDRツールとセットで提供されるのが一般的です。
自社でSOCを構築する場合、24時間365日の監視体制を維持するために専門人材の採用・育成、ツールの導入・運用、継続的な脅威情報のアップデートなど、多大なコストと工数が必要です。MDRは専門ベンダーにアウトソースすることでコストを抑えつつ、最新の脅威情報を持つ専門家による高度な対応を実現できます。自社にセキュリティ人材が不足している場合や、運用負荷を軽減したい場合は、MDRの導入が有効です。
MDRを選ぶ際は、監視対象や対応範囲が自社環境に合っているかを確認することが重要です。MDRといっても対応範囲はサービスによって異なるため、エンドポイントを中心に、ネットワークやクラウド環境まで、どこまでカバーしているかを確認しましょう。また、インシデント時に通知のみか隔離・駆除まで対応するかも、サービスごとに異なります。
あわせて、専門家のスキルや24時間365日の監視体制、日本語サポートの有無も確認しておく必要があります。さらに、レポートや改善提案の内容が実務や経営判断に活かせるかどうかも、長期的な活用を考えるうえで重要なポイントです。
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