企業活動のデジタル化が進む中、サイバー攻撃は事業継続や信用を脅かす経営リスクのひとつとなっています。攻撃手法は年々高度化しており、マルウェア感染や情報窃取、サービス妨害に加え、サプライチェーンを経由した侵入や生成AIを悪用した攻撃も確認されています。
被害を抑えるには、攻撃の種類だけでなく、攻撃者がどのような流れで侵入し、目的を達成するのかを理解した上で対策を講じることが重要です。この記事では、サイバー攻撃の基本的な考え方、主な攻撃手法、攻撃の流れ、企業が取るべき予防・検出・対応の対策について解説します。
目次
サイバー攻撃とは、コンピュータ、ネットワーク、サーバ、クラウド環境などを標的に、不正アクセス、マルウェア感染、サービス妨害、情報窃取などを行う悪意ある行為の総称です。攻撃の対象はWebサイトや業務システムに限らず、従業員の端末、認証情報、クラウドサービス、取引先との接続環境などにも広がっています。
地震や落雷による偶発的なシステム障害は「アクシデント」と呼ばれる一方、サイバー攻撃のような意図的行為に起因するセキュリティ上の事象は「サイバーインシデント」と区別されます。両者を分けて理解することは、社内報告や対外公表、再発防止策の検討において重要です。
企業では、顧客情報、取引先情報、研究開発データなどの重要情報を日常的に扱っています。そのため、サイバー攻撃を受けた場合、情報漏洩や業務停止だけでなく、取引先・顧客からの信頼低下、法的対応、復旧費用の発生など、事業全体に影響が及ぶ可能性があります。
参考:
・アタックサーフェス(攻撃対象領域)とは?
サイバー攻撃の増加は、複数の公的データからも裏付けられています。警察庁サイバー警察局「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(2026年3月公表)によれば、警察庁センサーで検知された不審なアクセス件数は1日・1IPアドレス当たり9,605.7件と前年比で増加しました。法人組織が直面する主な脅威は、「ランサムウェア攻撃」と「法人を狙うネット詐欺」に集約されます。
ランサムウェア被害は高水準で推移しています。
■ランサムウェアをめぐる脅威の情勢と警察の取り組み
※警察庁サイバー警察局「令和7年における サイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(2026年3月)
警察庁が2025年に把握した企業・団体からのランサムウェア被害報告件数は226件で、前年の222件を上回りました。被害企業のうち中小企業が約6割を占め、業種別では製造業が約4割で最多ですが、規模・業種を問わず幅広い組織が標的となっています。
■国内法人組織のランサムウェア被害公表件数の推移(海外拠点のみの被害も含む)
※トレンドマイクロ「国内サイバーリスクラウンドアップ 2026 Spring」(2026年3月31日)
トレンドマイクロ「国内サイバーリスクラウンドアップ 2026 Spring」でも、公表・報道ベースの被害件数は105件と過去最多を更新しました。同レポートでは、基幹システムを運用するデータセンターにまで攻撃が及び、数ヵ月にわたって業務停止に追い込まれるケースが続発したと指摘されています。さらに、業務委託先の被害が委託元に波及する「データサプライチェーンリスク」も顕在化しています。
攻撃者の動機を理解することは、自社が狙われる理由や守るべき情報を見極める上で重要です。サイバー攻撃の動機は、大きく以下の4つです。
<サイバー攻撃の主な4つの動機>
近年は金銭目的の組織犯罪化が顕著で、ほかの動機と組み合わさるケースも増えています。例えば、産業スパイ目的で侵入した攻撃者が、離脱時にランサムウェアを展開して金銭を要求するケースも観測されています。
・参考
ハクティビズムとは?
代表的なサイバー攻撃の概要を紹介します。各手口の詳細や対策は、関連記事「サイバー攻撃の種類TOP15とは?」をご覧ください。
・参考:
サイバー攻撃の種類TOP15とは?
マルウェアは、ウイルス・ワーム・トロイの木馬・ランサムウェア・スパイウェアなど、悪意あるソフトウェアの総称です。中でもランサムウェアは、ファイル暗号化と身代金要求に加え、情報を窃取して公開すると脅迫する「二重脅迫」、DDoSや顧客への直接通告を加える「多重脅迫」へと進化しています。
バックアップから復旧できる場合でも、漏洩した情報が公開されるリスクは残ります。そのため、暗号化後の復旧だけでなく、暗号化前の侵入段階で検知することが重要です。
・参考:
マルウェアとは?
ランサムウェアとは?
フィッシングは、実在する企業や機関を装った偽メール・偽SMS・偽サイトで、認証情報や個人情報を窃取する攻撃です。スピアフィッシングは、特定個人・企業を狙ったパーソナライズ型の詐欺メールです。標的の氏名・役職・業務内容・取引関係などを事前に調査し、「その人だけに送られた連絡」のように見える文面が用いられます。
生成AIの活用により、従来の見破り方が通用しにくくなっている点にも注意が必要です。特に経営層・経理担当・情報システム担当などの重要ポジションが狙われやすいため、模擬フィッシングメールを使った実践的な訓練で判断力を養うことが重要です。併せて、認証情報が窃取されても不正アクセスを防ぐ多要素認証(MFA)の導入や、なりすましメールによる誤送金を防ぐ送金プロセスの多重チェックも欠かせません。
・参考:
フィッシングとは?手口や最新事例、効果的な対策を解説
スピアフィッシングとは?
DDoS/DoS攻撃は、大量のリクエストでサーバやネットワークを停止させる攻撃です。1台の発信元から行うDoSと、複数の踏み台から同時に行うDDoSに分けられます。
近年は、乗っ取られたIoT機器を使った大規模DDoSが増加しています。単一発信元のDoSには帯域制御やレート制限、大規模なDDoSにはCDNやWAFによるトラフィック分散・遮断が有効です。また、サービス停止を目的とするケースだけでなく、別の攻撃の陽動として使われるケースもあるため、対策と監視体制を組み合わせて備えることが欠かせません。
・参考:
DDoS攻撃
ゼロデイ攻撃は、修正パッチが存在しない未公表の脆弱性を悪用する攻撃です。対策情報が公開される前に攻撃が始まるため、従来のシグネチャベースの防御では検知が困難な場合があります。
検知後もベンダのパッチ提供を待つあいだに攻撃が継続する可能性があるため、振る舞い検知や脅威インテリジェンス、仮想パッチ、一時的なネットワーク隔離など、暫定的な緩和策を迅速に実行できる体制が求められます。
・参考:
ゼロデイ攻撃
ソーシャルエンジニアリングは、技術的な脆弱性ではなく、人間の心理的な隙を突く手口です。電話を使ったビッシング、SMSを使ったスミッシングなどが代表例で、標的型攻撃の入口としても多用されます。
技術的な防御だけでは防ぎきれないため、定期的な訓練や、疑わしい連絡を確認できる相談窓口の整備など、人と運用の両面での対策が不可欠です。
・参考:
ソーシャルエンジニアリングとは?
サプライチェーン攻撃は、セキュリティが堅固な大企業を直接狙わず、取引先・委託先・ソフトウェア提供元を踏み台に侵入する手口です。自社の対策だけでは防ぎきれないため、取引先を含めたセキュリティ確保が求められます。
委託先選定時のセキュリティ評価、契約におけるインシデント報告義務の明文化、ソフトウェア部品表(SBOM)による構成把握など、平時からの取り組みが被害の最小化につながります。
・参考:
サプライチェーン攻撃とは?
サイバー攻撃は、ある日突然データが盗まれるのではなく、事前調査から侵入、遠隔操作、目的達成まで段階的に進むケースが多くあります。この流れを整理した考え方が「サイバーキルチェーン」です。攻撃者の行動を7段階のフェーズに分解することで、どこで検知・防御すべきかを体系的に検討できます。
■サイバーキルチェーンの7段階
どこか1段階で完全に防ぎきれなくても、途中で検知・遮断できれば被害拡大を抑えられる点がポイントです。例えば、フィッシングメールが届いた場合でも、本文内のURLをクリックした段階でWebフィルタリングがブロックできれば、偽サイトへの誘導と認証情報の窃取を防げます。この考え方が、後述する「予防・検出・対応」の3軸による多層防御につながります。
・参考:
サイバーキルチェーンとは?
サイバー攻撃による被害は、情報漏洩だけにとどまりません。被害は連鎖的に拡大するケースが多いため、攻撃後の影響を事前に想定しておくことが事業継続計画(BCP)の前提となります。主な被害は以下の4つです。
<サイバー攻撃による主な被害例>
■サイバー攻撃への対策
サイバー攻撃は多層化・多段階化しており、単一の対策では完全に防ぐことは難しくなっています。現代のセキュリティ対策では、侵入されないための「予防(Prevent)」だけでなく、侵入時に早期発見する「検出(Detect)」、被害を最小化する「対応(Respond)」まで含めた3軸で考えることが基本です。
3軸はそれぞれ独立した取り組みではなく、相互に補完し合う関係にあります。どれか1軸が欠けても、全体の防御力は大きく低下します。
予防(Prevent)は、攻撃の起点となる入口を塞ぎ、侵入そのものを防ぐための取り組みです。守るべき資産を可視化した上で、認証、脆弱性管理、従業員教育、外部公開資産の管理、通信・アクセス制御などの観点から対策を重ね、攻撃者が悪用しやすい弱点を残さないことが求められます。
具体的には、以下のような対策が挙げられます。
<予防のために実施すべき主な対策>
検出(Detect)は、予防をすり抜けて侵入した攻撃を、目的達成前に発見するための取り組みです。攻撃者の侵入から検知されるまでには一定の時間(ドウェルタイム)がかかるため、このあいだに異常をいかに早く検知できるかが被害規模を左右します。
<検出で整備すべき主な仕組み>
対応(Respond)は、攻撃を受けた後の被害を最小化し、復旧と再発防止までを含めた取り組みです。攻撃発生時に判断や連絡で迷う時間が長引くほど被害は拡大するため、平時からインシデント対応計画(IRP)を整え、誰が・いつ・何を判断するかを明文化しておく必要があります。
<対応で整備すべき主な体制・手順>
サイバー攻撃が多様化・多段階化する中、複数のセキュリティ製品を個別に運用する従来型の対策では、リスクの全体像を把握しにくく、検知・調査・対応の遅れにつながる場合があります。
TrendAI Vision One™ は、サイバーリスクエクスポージャ管理、セキュリティ運用、多層的な保護を一元化するエンタープライズサイバーセキュリティプラットフォームです。エンドポイント、クラウド、ネットワーク、メール、ID、データなど、企業のIT環境全体にわたるリスクや脅威を可視化し、対策の優先順位付けを支援します。
XDR、Agentic SIEM、Agentic SOARを含むSecurity Operations(SecOps)により、脅威の検知・調査・対応を効率化。さらに、AIアプリケーションやエージェントの利用・開発に伴うリスクにも対応し、AI活用時のガバナンスと脅威対策を支援します。
予防・検出・対応の3軸を統合的に運用し、継続的に進化するサイバー攻撃への備えを強化したい場合は、TrendAI Vision One™の導入をご検討ください。
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Jon Clayは、29年以上にわたってサイバーセキュリティ分野の経験を持ちます。Jonは業界での知見を活かして、トレンドマイクロが外部に公開する脅威調査とインテリジェンスに関する教育と情報共有を担っています。
サイバー攻撃は、意図的にコンピュータやネットワークへ害を与えようとする「行為」を指します。サイバーインシデントは、その攻撃によって発生したセキュリティ上の「事象」です。地震や落雷など偶発的なシステム障害はアクシデントと呼ばれ、それぞれ区別されます。
中小企業もサイバー攻撃の標的になります。ランサムウェア被害では中小企業が一定割合を占めており、攻撃者はセキュリティ対策が手薄な組織を狙う傾向があります。
また、大企業のサプライチェーンを構成する取引先・委託先として狙われるケースもあるため、自社だけでなく取引先への影響も考慮した対策が必要です。まずはMFA・パッチ管理・定期的なバックアップ・従業員教育など、基本的な対策の徹底が求められます。
害が疑われる端末をネットワークから切り離し、被害拡大を防ぐことが最優先です。続いて、社内のセキュリティ担当・CSIRTに報告し、組織的な対応を開始します。
証拠保全のため、ログや状況を記録し、不用意にシステムを再起動・初期化しないことも重要です。深刻な被害が確認された場合は、警察・IPA・JPCERT/CCへの届出・相談を検討してください。