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2017/02/07

スマートシティセキュリティ第1回:スマート化が進む世界の都市

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住む人やそこで働く人に大きな恩恵をもたらすスマートテクノロジーが集約・実装されたスマートシティではどのようなセキュリティが必要とされるのでしょうか?本連載では、スマートシティの現状とその課題、対策について考察していきます。第1回は、スマート化が進む世界の都市事情を紹介します。

中国では「四つの近代化」路線を掲げ、国を挙げての経済活性化を目指し、国民の都市部への移住を促進しています。移住者は2億5,000万人に及び、2025年までに都市人口は9億人に増える見込みです。このような都市人口の急増は、エネルギー消費や廃棄物処理など、エコシステムにまつわる問題を常にもたらします。これらの問題に対処するため、中国では民双方の部門でスマートテクノロジーへの投資に乗り出しています。こうした経緯から、中国は世界でも有数のスマートシティが最も集中した国の1つとなるでしょう。

スマートシティの構築に何が必要でしょうか?

現在、世界人口の半数以上(54%)が都市部に居住していますが、それらの都市すべてが無条件に「スマートシティ」と見なされるわけではありません。国際標準化機構(ISO)と国際電気標準会議(IEC)は、スマートシティをSystem of Systems(SoS)と形容しています。スマートシティでは、エネルギーや交通システムなどの主要インフラがセンサーネットワークなどの新技術と統合されて公共サービスが向上し、都市住民が大きな恩恵を得られるように設計されています。その多くは、ネットワーク化されたインフラを構築して快適な生活をもたらし、都市開発を実現し、都市全体の持続可能性を促進します。

都市の重要課題の多くがスマートシティ構築に直接影響します。通信、交通、廃棄物処理などのサービス提供の改善、公共のセキュリティ対策強化などの課題に取り組む政府にとって、スマートシティは有効な選択肢となります。省エネ化では、世界のエネルギーの約70%が大都市で消費される現在、スマートシティによるプロセスやインフラの整備は不可欠です。都市のエネルギー消費や廃棄物は、気候変動など環境問題にも深刻な影響を与えるからです。スマートテクノロジーは、こうした課題の防止や改善に国家が取り組む際、都市レベルでの対応が可能になります。

実際、既存のスマートシティの多くは、経済発展に対応するためにITを駆使しています。例えば、ニューヨークでは、大気汚染を監視するために大気質検査を実施しています。一方、ボストンでは「BOS:311」というアプリを使用しています。このツールによりボストン市民は、マサチューセッツ州の他の住民とつながり、落書きや道路の窪みなどの問題を関係当局に報告できます。

スマートシティ構築により、膨大なデータが生成され、関連組織や政府機関がそこから抽出された特定データへ容易にアクセスできるようになります。ただしその結果、都市を最適化するために生成されたビッグデータが不用意に分析、共有、利用され、セキュリティやプライバシーの問題が生じる恐れもあります。スマートシティに対する攻撃は現状まだ確認されていませんが、スマートテクノロジーは、住民とインフラの管理を担っており、その安全が守られるべきことは明白です。

世界各国のスマートシティ

スマートシティの導入方法は地域によって異なります。各地域で住民のニーズや利用可能なテクノロジーが異なるため、そうした違いに即して導入されています。以下、現存するいくつかのスマートシティを紹介し、それぞれの課題に対してどのようにスマートテクノロジーを導入しているかを説明します。なお、ここで紹介する都市は、世界中に多数存在するスマートシティ全体の一部に過ぎません。

世界各国のスマートシティ

世界各国のスマートシティ

韓国で世界初のスマートシティ、ソンド国際商業地区(IBD)

ソンド国際商業地区(IBD)は、スマートテクノロジーを都市全域に導入して構築された世界最初のスマートシティです。ソンドの住民はリアルタイムのビデオ通信を利用して英会話クラスにリモート参加したり、医師によるリモート診療を受けたり、在宅勤務まで行えます。パッシブ型とアクティブ型の無線自動識別(RFID)を備えた近距離無線通信(NFC)や、物理センサー、バイオメトリックセンサー、3Dテレビおよび閉鎖回路テレビ(CCTV)のカメラも装備されています。さらにSecure Sockets Layer(SSL)、ファイアウォール、公開鍵基盤(PKI)、侵入検知システム(IDS)など、データセキュリティの標準プロトコルも利用されていますが、これらはほんの数例にすぎません。

ソンドIBDでは、居住者向けに淡水、下水、再処理水の3つの水道施設が完備され、発熱には天然ガスが使用され、ゴミ処理には空圧ゴミ収集システム(地下の真空チューブで集中管理されたシステム)が設置されています。

ソンドIBDは、家の鍵にスマートカードを使用していることからユビキタスシティの代表例と見なされています。このカードは、地下鉄、駐車場、映画館などの支払いにも利用できます。スマートカードとユーザーIDは紐づけられておらず、紛失時にはすぐに無効化してリセットできます。とはいえ、各家庭や、ビジネス、至る所に設置されたCCTVカメラ、子どもの腕輪に内臓されたGPS等、スマートシステム導入の際に生じるプライバシーの問題と同様、こうしたスマートカードの普及もプライバシーの問題を引き起こす恐れがあります。とりわけこのような規模の場合においては、IoT(モノのインターネット)に関わるすべてのモノについて、利便性とプライバシーのバランスを考慮することが求められます。

横浜市のエネルギー対策

2011年の東日本大震災を受けて、内閣官房国家戦略室は、エネルギー利用の安全性や効率等の課題に対応するため、「グリーン政策」を策定しました。この政策には、2030年までに家庭用エネルギー管理システム(HEMS)を全世帯に導入する計画が盛り込まれています。計画は実現に向っており、スマートグリッドの一環である「横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)」では、HEMSが優先され、約4,200世帯のHEMS、37メガワットの太陽光パネル、2,300台の電気自動車(EV)が導入されました。これは、39,000トンの二酸化炭素削減に相当します。

HEMSの導入により、横浜市の世帯や建築物は、大容量電化製品のピーク時の消費量を調整したり、リアルタイム監視で施設内消費を最適化したりすることで、効果的な節電が可能になります。この結果、省エネとグリッドのセキュリティ向上も実現しました。しかしこの集中型システムにも課題が残されています。日欧産業協力センターの報告では、このようなシステムではデータのセキュリティが保証されないと指摘されています。応答型のコマンドが不正に操作された場合のリスクが懸念されるからです。電化製品の停止や、さらには市内全域での停電の可能性もあります。これらの点に関しては、調査と対策の検討が継続して必要です。

シンガポールの国家プロジェクト

シンガポールは、整然とした町並みや高速ブロードバンドサービスといったレベルを越えて、国家規模の「スマート国家」を目指しています。これは、ビッグデータ、サイバーセキュリティ、都市ロジスティクスの、開発スマートヘルス支援の提供などを通じて、来るべき人口の高齢化と過密化に備える施策でもあります。

オンデマンドの移動設備では、タクシー等の自動運転者導入など、シンガポールは先端を走っています。通勤や通学では、運行パターンとクラウドで処理・判断(クラウドソーシング)される提案によって生成されたルートに沿ったバスの座席が予約できます。さらにシンガポール国立研究財団(NRF)は「Virtual Singapore」プロジェクトを立ち上げました。

このプロジェクトの目的は、シンガポール全体の精巧な3Dモデルを構築し、企業や組織の意思決定者や、都市計画担当者、研究者などが同国の複雑な課題に対処するツールを開発するのを支援することです。シンガポールが目指しているスマート国家が実現すれば、都市全域での接続性が維持されるだけでなく、大気汚染、気温、湿度、交通量、速度の検知器と防犯カメラで構成されるセンサーネットワークが実現し、住民の行動に即した(禁煙区域での喫煙や最も混雑する交差点など)情報が提供され、さまざまな問題へ対処可能となります。

これらのプロジェクトはすべて、スマートシティ実現に必要不可欠なデータに依存しています。収集したデータは、犯罪防止、交通状況の把握、注意喚起の発令など、当局のさまざまな意思決定に活用できます。ただしこの場合も「市民は公共の便宜のために個人情報をどこまで喜んで提供するか」という疑問は残ります。シンガポールの法律では、住民情報の収集は合法であり、収集に際して裁判所の命令は必要としません。しかし(特定の場所にCCTVカメラを設置するなど)特定情報の収集に関しては、権限移譲の承認が必要となります。

オランダ各都市の取り組み

アムステルダムは、太陽光発電の三輪車による食品配達サービスや、クラウドソーシングによる駐車場の管理等、市民レベルでの斬新な取り組みが進んでいます。さらにオランダの3都市(ナイメーヘン、ロッテルダム、アルメレ)のスマートプロジェクトも大きな注目を集めています。

ナイメーヘンは、市民による低コストセンサーネットワークを駆使した「Sumart Emission Project」が試験的に実施されています。このプロジェクトでは、市民がパートナーとなり、ロータリー、歩道、家屋前などの公共の場所にセンサーを配置します。これらのセンサーは、大気汚染、騒音レベル、湿度、気圧などのデータをリアルタイムで収集し、集めたデータは地図で可視化され、24時間365日体制で地元の住民へ即座に提供されます。

ロッテルダムでは、「Rain Radar」と呼ばれる持続可能な水管理システムが導入されています。このシステムにより水道委員会は、特定地域の降雨量を把握し、広場、地下の貯水槽、運河などに水量を分配、調整して洪水を防ぎます。海面下6メートルに位置し、豪雨が深刻な被害を招くなど、ロッテルダムは洪水に対して脆弱であるため、こうした小規模の設備が発達しています。屋根の緑化、水害対策のウォータープラザ、地下貯水施設を備えた駐車場なども、洪水対策のために設置されています。

アルメレ基礎自治体の1つアルメレ・オーステルウォルド(Almere Oosterwold)には、送電線網を利用しない再生の村「ReGen」があります。この村では、季節のサラダ野菜を菜園から収穫したり、共同農場から卵を収集したり、堆肥にする生ゴミを回収したりすることが日常風景です。廃棄物の再生利用、エネルギーと食料の独自生産、汚染物質の排出ゼロなど、自給自足の生活空間を目指して設計され、、特にそうした人々の生活と共に、温室、アクアポニックス農園、畜産、太陽電池、貯水施設なども完備しています。

インド、ジャイプルの取り組み

ジャイプルは、2022年完成を目指した「スマートシティ100」の1つに選ばれることになるでしょう。すでに専門サイト、ソーシャルメディアによる報告、実際のミーティングなどを通じて住民の積極的な活動が展開されています。住民のアンケート調査によると、優先して対処すべき関心事として、交通機関、移動手段、歴史的建造物の保存と開発、これらの歴史遺産を活かしたスマートシティとしての観光事業などが挙げられています。これらの調査結果から、ショッピング施設や名所周辺のキオスクや駐車場にWi-Fiホットスポットや監視カメラを提供するルーターとアクセスポイントの設置が実現しています。キオスクでは、無料地図の配布や携帯電話の充電サービスに加え、ドキュメントのスキャン、プリントアウト、アップロードも提供しています。ただし、ドキュメントには機密情報が含まれることがあるため、開発元は安全な接続とデータ収集の仕組みを提供する必要があります。

中国で進む国家プロジェクト

中国は386のスマートシティを計画しており、「四つの近代化(工業、農業、国防、科学技術)」の一環として進められています。この計画では、国有企業と民間企業が開発したモバイルアプリが大きな役割を果たしています。これらのアプリは将来的には、公共交通機関医師の診療予約料金の支払いなどに使用される予定です。しかし中国では、すでに悪質なアプリマーケットによる不正アプリの配布が常套化しているため、住民は携帯電話のルート化やサードパーティの不正アプリに注意する必要があります。

中国の都市計画担当者は「Urban Data Lab」を立ち上げ、政府関連情報、既存の都市計画、通信事業者の携帯電話メタデータ、位置情報サービスの行動データ等を収集しています。収集されたデータは、通勤・通学時間の計算、余暇行動のパターン等、より最適な都市計画やポリシーの策定を支援するため、都市住民の移動情報の分析に利用されます。

さらに「City Brain」と呼ばれるプロジェクトは、機密情報が悪用される懸念があるものの、中国のような人口密度国家に良い影響を与える新技術の開発を目指しています。このプロジェクトでは、PC並の常時接続が必要な5万台以上のビデオカメラが活用されます。そして開発者は、最終的に各都市が人工知能(AI)のコミュニティへと進化することを目指しています。

スペイン、フンでのソーシャルメディアによる取り組み

スペインの小さな町のフンは、2011年以降、Twitterで市議会を運営しており、ソーシャルメディアを介して市民の諸問題に取り組んだ好例といえます。このため、フンのすべての公共機関と職員は、Twitterのアカウントを取得する必要があります。Twitterは、犯罪の通報、迷い犬の発見、医師の診療予約、地方政府の職員と連絡を取る際にも使用されます。

つまり、事務業務全般がTwitterを介して行われています。例えば、街灯が壊れていることを誰かがツイートした場合、市の職員は電気工事業者にタグ付けして即座に対応できます。街灯の修理が完了すると、電気工事業者がツイートに返信して問題が解決したことを報告します。

Twitterの使用により、警官も4名からわずか1名に減らして警察組織をスリム化できました。無料のWi-Fiアクセスを利用し、住民は苦情や依頼や問い合わせを物理的に行う必要がなくなりました。もちろん、ソーシャルメディアが悪用される可能性もあります。例えば、攻撃者が職員のアカウントをハッキングして、フォロワーにスパムを送信したり、誤った情報の発表や投稿で公務を妨害する恐れもあります。万一こうした悪用が発生した場合、迅速な対策が求められます。

このように世界中でさまざまなスマートシティが順調に導入される中、将来的には同様の大都市がさらに登場する可能性があります。そして政府機関や組織によるスマートシティ構築が活発化する中、都市のプロセス、インフラ、データのセキュリティを確保し、住民に恩恵をもたらす持続可能な発展が求められています。

次回の「スマートシティ セキュリティ」シリーズでは、特に米国のスマートシティに注目し、セキュリティのリスクにさらされるデバイスや主要インフラを取り上げ、これらを守るために組織はどのような対策を講じるべきかについて説明します。

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