Artificial Intelligence (AI)
セキュアな推論を加速:Trend CybertronがNVIDIAのユニバーサルLLM NIMマイクロサービスを活用
初のプロアクティブ型サイバーセキュリティAIであるTrend Cybertron が、NVIDIAの新しいユニバーサルLLM NIMマイクロサービスの力をどのように活用してAI for Securityを加速しているかをご紹介します。
NVIDIA GTC パリ 2025 において、NVIDIAは、幅広い大規模言語モデル(LLM)を迅速かつ安定して展開するための新たな「ユニバーサルLLM NIMマイクロサービス」の提供を発表しました。この新しいマイクロサービスは、デプロイメントとバックエンド最適化を切り離す設計となっており、従来の企業環境では実現が難しかった柔軟性、スピード、スケーラビリティを可能にします。
トレンドマイクロはグローバルなサイバーセキュリティリーダーとしてNVIDIA エンタープライズ AI ファクトリーの検証済み設計のエコシステムの一員となっていますが、ユニバーサルLLM NIMマイクロサービスの提供は戦略的な転機となるものと言えます。このマイクロサービスにより、リスクインテリジェンス、テレメトリ、攻撃者の手口に基づいて長年培われてきた知見で学習した、ドメイン特化型言語モデルであるTrend Cybertron プロアクティブ・サイバーセキュリティLLMを、これまでにない性能と手軽さで本番環境に展開することが可能になりました。これは、最先端のインフラ上に構築された、セキュアかつスケーラブルなAI主導のサイバーセキュリティソリューションを提供するという、継続的な取り組みにおいて大きな節目となります。
本稿では、ユニバーサルLLM NIMマイクロサービス・コンテナの概要と、その技術がセキュアなAI開発においてなぜ重要なのか、そしてトレンドマイクロがこの仕組みをどのように活用して、主権型AI時代のサイバーセキュリティを再定義しているのかをご紹介します。
Trend CybertronとユニバーサルLLM NIMマイクロサービスの融合
トレンドマイクロでは、MITRE ATT&CKの手法やSIEMログ、自然言語のリスクレポート、レッドチームによるシナリオなど、セキュリティ領域の文脈を深く理解するために設計された独自のTrend Cybertron LLMの開発に注力してきました。ユニバーサルLLM NIMマイクロサービスを活用することで、これらのカスタムモデルをNVIDIA エンタープライズ AI ファクトリー上で、クラウド、ハイブリッド、オンプレミス環境を問わず、直接実行できるようになります。
この点が重要である理由は、以下のとおりです。
- 迅速な価値提供:ユニバーサルNIMコンテナを使用することで、リアルタイムのリスク検知に特化したカスタムLLMを、エンジンレベルの最適化を待たずに展開できます。
- 柔軟なバックエンド対応:高性能推論に特化した NVIDIA TensorRT-LLM を利用する場合も、スループットやバッチ処理に優れたvLLMを選択する場合も、ユニバーサルNIMがバックエンドの複雑さを抽象化してくれます。
- 主権型AIへの対応:トレンドマイクロは、厳格なデータ主権やセキュリティ要件を持つ企業や政府機関にもサービスを提供しています。NVIDIA エンタープライズ AI ファクトリーの検証済み設計を用いたオンプレミス展開によって、国のAI戦略にも整合する、スケーラブルでプライベートかつ信頼性の高いLLM推論を実現できます。
- セキュリティを中核に:セキュリティベンダーとして、自社でモデルをホストできることは大きな利点です。これにより、トレーニングデータや知的財産、顧客テレメトリに対する管理が可能となり、信頼できるAIの実現に不可欠な要素を維持できます。
セキュアで主権性のあるAIファクトリーの構築
Trend CybertronとユニバーサルLLM NIMマイクロサービスの統合により、各国や企業はスケーラブルで主権性のあるAIファクトリーやAIエージェントの構築が可能になります。これらの革新は、地域ごとに制御可能で、自己進化し、セキュアなAIシステムを実現するための重要な要素となります。トレンドマイクロのセキュリティ領域における専門性は、AIエージェントやモデルに高い性能だけでなく、安全性、監査可能性、そしてレジリエンスを確保するうえでも貢献しています。
NVIDIA NIMマイクロサービスを活用することで、トレンドマイクロはCybertron LLMを通じて、堅牢なAI主導のサイバーセキュリティ機能を構築しています。
- モデルドリフトのモニタリング:ユニバーサルNIMマイクロサービスによって迅速なデプロイサイクルが可能となり、本番環境での推論挙動を監視しつつ、NVIDIA NeMo Data Flywheelを活用してモデルを再学習させることで、長期的な精度を維持できます。
- ゼロトラスト推論:NIMをオンプレミスで展開することで、Cybertronはゼロトラスト・アーキテクチャ内で動作可能となり、モデルの推論処理が厳格に制御・監査されます。
- RAG+セキュリティLLM:NIMとAI-Q Blueprintを統合することで、トレンドマイクロは、セキュリティのナレッジベース、テレメトリログ、脅威インテリジェンスをリアルタイムで解析するAIエージェントの構築を可能にしています。
- 高速な実験環境:バックエンドに依存しないデプロイメントによって、セキュリティ研究者はCybertronの新しいバリアントをNVIDIAインフラ上で即座に試すことができ、ライブリスク発生時の対応速度を向上させます。
NVIDIAの高性能なAIスタックと、トレンドマイクロのサイバーセキュリティにおけるドメイン専門性を組み合わせることで、以下のような取り組みを共同で実現しています。
- セキュアかつプライベートなLLMの迅速な展開
- 機密データを扱うAIエージェントに対するエンドツーエンドの可視性
- 脅威に適応し進化可能な、状況認識型AIシステム
Trend CybertronがユニバーサルNIMマイクロサービスを通じて展開可能となった今、サイバーセキュリティはより迅速に、よりスマートに、より安全に、そしてよりプロアクティブに進化しています。AIをデジタル防衛の最前線へと導く取り組みが、ここに加速しています。
まとめ
ユニバーサルLLM NIMマイクロサービスは、単なる技術的進歩にとどまらず、エンタープライズAIの導入における大きな転換点となります。トレンドマイクロにとっては、Trend Cybertronプロアクティブ・サイバーセキュリティLLMの可能性を最大限に引き出し、柔軟かつ迅速にAIセキュリティソリューションを展開・改良・拡張することを可能にする仕組みです。
俊敏性が求められ、リスクが日々変化する時代において、ドメイン特化型LLMを初日から安全に展開できることは、大きな革新といえます。クラウドインフラやエンドポイント、エンタープライズネットワークの防御においても、トレンドマイクロはNVIDIAと共に、AIとサイバーセキュリティがともに進化していく未来の実現に取り組んでいます。
参考記事:
Enabling Secure AI Inference: Trend Cybertron Leverages NVIDIA Universal LLM NIM Microservices
By: Patrick Lu
翻訳:与那城 務(Platform Marketing, Trend Micro™ Research)