世界と向き合い、挑んでいく者にチャンスは訪れる

フェンシング太田雄貴選手×トレンドマイクロCEOエバ・チェン

IOC総会での東京五輪招致の最終プレゼンターの一人として、情熱的なスピーチをしたアスリートを覚えているでしょうか。フェンシング太田雄貴選手(森永製菓所属)です。2008年の北京五輪で日本人初となる銀メダルを、そして7月に行われた世界選手権で日本人初となる金メダルを獲得し、日本フェンシングを牽引する人物です。
日本では、まだまだマイナーなフェンシング。競技人口は6,000人。900,000人ともいわれるサッカーとは格段の差です。こうした日本フェンシングの現状を変えていきたいと、太田選手は活動の場を競技場の外にも広げてきました。太田選手の活動に共感し、このほどスポンサー契約に至ったトレンドマイクロ。大きな目標をかかげ、世界に挑み続ける太田選手に、同じくセキュリティで世界に挑んできたトレンドマイクロ CEO エバ・チェンが話を聞きました。

次の動きを予測し先手を打つ

エバ 世界選手権での優勝、おめでとうございます。太田選手とのスポンサー契約のお話は、ずっと以前から進めてきたわけですが、それだけに今回の金メダル獲得は私たちとしても自分のことのように嬉しかったです。

太田選手 ありがとうございます。世界を相手に勝利することは私の夢でしたし、その夢の実現を支えてくださった皆さんには本当に感謝しています。

そして、今回の契約についても、未来につながるお話として大変光栄に思います。日本ではサッカーや野球がメジャーですから、エバさんに初めてお会いした時、フェンシング競技経験を持つ経営者がいる、というだけで驚きでした(笑)。

エバ 私はあくまでもアマチュアの愛好者ですが、自分自身が競技をしていたからこそ、フェンシングが備えている本質に触れることができましたし、トレンドマイクロが目指すものとの共通性を感じたのは事実です。

例えば、フェンシングという競技名の由来は、フランス語の「守る」という言葉から。トレンドマイクロもまた、インターネットの脅威から人々を守る、防御するという役割を担っています。だからこそ、太田選手が得てきた豊かな経験や、培ってきた知識や精神を伝えてもらえたら、と考えたのです。

またフェンシングという競技は力だけでは勝てませんよね。多様な戦略を立てて、賢く動かないといけない。そういう部分でも私たちのビジネスとの共通性を感じます。

太田選手 鋭いご指摘ですね。実を言うと、私はロンドン五輪の後、一度引退をしました。それでもやり残したことがある、と思い直して復帰を決意した時、戦い方についての発想を大きく変えました。

かつての私は、スピードと瞬間的なパワーを重視して勝とうとしていました。でも、復帰後はエバさんが指摘したように「戦略的に戦う」方向へシフトしました。それが今回の世界選手権における最大の勝因だと感じます。

エバ フェンシングのコーチによく言われました。「相手の剣の動きを追ってばかりいては守りきれない。相手の剣の動きを事前に予想して、先手を取って動け」と。この原則はセキュリティの世界にも通じます。

私たちセキュリティベンダは、世界各地に潜むハッカーが次にどういう攻撃をしてくるか予測して、万が一それが実際に起こった時には、万全のソリューションが整っている状況を用意しておかなければいけません。

太田選手 相手のアクションに合わせていくリアクション主体の防御では、世界クラスの選手が持つスピードにはついていけません。選手に問われるのは、試合の局面や選手の特徴なども考慮しながら、どれだけ迅速に「次の動き」を予測し、その予測に基づいて先手を打っていけるかどうかです。やはり、エバさんとは話が合いますね。世界を相手に戦う、という部分で共通しているからかもしれませんね。

勝機をつかみ取る-「選択と集中」

エバ トレンドマイクロは1989年に、私を含めて、たったの3人で設立した小さな会社でした。すでにこのころ、IT領域には大手のアメリカ企業などが存在していましたから、対抗するにはこうした企業と競っていかなければいけない。そこで考えたのが「フォーカスをしていく」こと。そしてこの絞り込んだ領域で「迅速に動く」こと。何か起こったら即対応する。「そうしなければ勝てないね」と話していました。

戦略のもとで集中をして、迅速に動く。それが私たち流の「世界との向き合い方」です。太田選手の場合はどうですか。

太田選手 世界を相手に戦いたいですし、戦うなら勝ちたい。そう考えるようになって、一番意識をしたのは「自分を知る」ことでした。

例えば、私は背が低い。でも、その事実をしっかり受け止めて戦えば勝機はある。自分がどんな弱みを持ち、強みを持っているかをつぶさにチェックして理解していく。その上で、エバさんがおっしゃった「選択と集中」を私も試合で実行しています。勝負できるところではするけれど、できないところでは決してしない。自分に優位性があるところでしか勝負をしない。これを徹底していきました。

エバ 昨年、2020年の五輪招致プレゼンで太田選手がなさったスピーチは、本当に熱がこもっていて素晴らしかったです。こういう活動でも「世界と向き合う」姿勢を貫かれていることに感心しました。

太田選手 これからの世代である若手選手のためにステージを用意したい、チャンスを届けたい、と思って臨みました。それに、ちょうど一度引退していた時期だったので、時間とエネルギーがあり余っていて(笑)。辞めた時は周囲からかなり叱られましたが、今振り返ってみれば、一度辞めたおかげでこういうこともできた、と自分では納得しています。

エバ 最高の機会が巡ってきても、つかみ取るための準備ができていなければ、逸してしまいます。太田選手は、世の中に伝えたい思いを明確にし、情熱とともに具現化していったからこそ、それが多くの人の心に響いて、招致という結果を勝ち得たのではないか、そう想像しています。

教えることでよみがえる情熱と初心、自分自身が強くなるために。

エバ 私は「不忘初心」という言葉が好きです。この会社を作って20年以上が経ちますけれども、初心を忘れないことが大切だと今でも思っています。世の中がどんなにデジタル化しようとも安全や安心を守って社会に貢献したい、というのが我々の初心だったわけで、金銭的な利益というのは結果でしかない。こうした初心は、会社がどんなに成長しようとも変わりませんし、従業員一人一人に伝えなければなりません。

今回、スポンサーとして契約させていただいた背景には、太田選手が現役選手でありながら、次世代の選手育成にも積極的だから、という面もあります。10年前にCEOに就任して以来、私自身の使命としても「これからのトレンドマイクロを支えてくれる人材を育てること」が非常に重要になってきました。

太田選手 だから私だけでなく、日本フェンシング協会も支援してくださるのですよね。心から嬉しく思っています。
私が後輩選手への指導で大切にしているのが、自分で考えさせることです。受け身ではなく、戦略的に考えることが選手も必要ですし、これができないと世界には通用しません。

エバ ビジネスでも同じことがいえます。インターネットなどでビジネスが高度に進展する今、多くの企業でイノベーションが求められています。イノベーションを生み出すのは、従業員一人一人のナレッジ、そして情熱です。その土台になるのが、自分自身、つまり自分と向き合い、そして信じることです。私がサポートできるのは、従業員がそれぞれの能力を発揮できるよう、ポテンシャルを見極め、伸ばしていくことです。

会社設立後、私はエンジニアとして現場で活動をしていましたが、CEOになってからは製品開発に直接携わることはなくなりました。そんなある日、新技術の特許申請に出向いた時、質問をされました。「これはどなたが発明したものですか?」と。私は特定の個人の名を言うことができませんでした。なぜなら文字通り組織の皆で開発したものだったからです。私たち皆で生み出したのだ、と気づいた時、私は感激しました。これこそが理想。素晴らしい瞬間だと思ったのです。

ですから太田選手は先ほど、東京五輪では現役ではないかもしれない、とおっしゃっていましたが、そうなったとしても、勝利を目指す姿勢に変わりはありませんよね。

太田選手 今の高校生たちは本当に強い。僕が負ける可能性だってあるくらいの力をすでに持っています。そんな実力を兼ね備えた彼らを指導するのは本当に面白い。現役を続けている今この時に、あえて育成に携わっていることにも理由があります。

その1つは、指導される若い人たちの気持ちを考えてのこと。「元選手」から習うよりも「現役選手」から直接指導されるほうが興奮もするでしょうし、私としても専任コーチとは違う何かを届けることができると思っています。

さらに大事な理由がもう1つあります。先ほどエバさんは「初心」の重要性を指摘していましたよね?私は彼らと向き合うことで「初心」を思いだし、忘れそうになっていた情熱やモチベーションに火を灯すことができます。教えることで自分も強くなる。自分自身のためにもなるから、今このタイミングで育成に携わっています。

2020へ。そしてその先の未来へ

エバ トレンドマイクロは以前からオリンピックにおいて情報セキュリティ面でお手伝いをしています。2020年の東京でもセキュリティベンダとしてお手伝いしたいと考えています。ですから、東京でも「安全で安心できる五輪だった」と言われるよう、できる限りの貢献がしたいと思っています。

そしてもちろん、日本のフェンシングチームが優勝することも期待しています。それには太田選手の強烈なリーダーシップが不可欠ですから、育成活動も含めて応援したいと思います。

太田選手 私が東京五輪に選手として出場するかどうかはさておき(笑)、私を超えるような選手を次々に輩出し続けることが最も重要な使命だと思っていますので、今後もトレンドマイクロさんのご支援を活かして、皆で一丸となり強くなっていきます。

今回の契約のおかげで、私は皆さんからITについての知識も得ることが出来ると思って楽しみにしていますが、そればかりでなく、アスリートがアスリートだけで終わらない発想や視点というものも教わりたいと思っています。逆に僕らからはアスリート・マインドを社員の皆さんに伝えていきたいと思ってもいます。そのように、お互いにとって意義のある関係性を築けたらいいですね。

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現役選手でありながら、後進育成にも積極的な太田選手。8月にはトレンドマイクロとともに次世代フェンサ―育成のための合宿を開催。世界での勝利、次世代リーダーを育成するキャンプとはどのようなものなのでしょうか。

記事公開日 : 2015.9.2
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