プロパガンダとは?意味や事例について解説
プロパガンダとは、特定の意見や信念を広めるために情報を操作し、感情に訴える手法や活動を指します。生成AIやデジタルメディアを悪用した「サイバープロパガンダ」を含め、現代におけるプロパガンダの様相と適切な対策について解説します。
プロパガンダとは?
プロパガンダ(Propaganda)とは、特定の意見や信念を広めるために情報を操作し、感情に訴える手法、活動を指します。現在では政治的、社会的な目的で使用されることが多く、拡散される情報には真実性や客観性が欠如していることもあります。
言葉の語源はラテン語の「propagare(前進する、広がる)」で、当初は中立的な意味を持っていました。しかし、情報操作的な意味合いが強くなった現代では否定的なニュアンスで使われることが多くなっています。
プロパガンダの本質は、人々の感情に訴えかけ、思考や行動を特定の方向に誘導することにあります。そのため、しばしば情報の歪曲や誇張、あるいは都合の悪い情報の隠蔽などの手法が用いられます。
戦略的なプロパガンダの関連用語で「インフルエンスオペレーション(影響力工作)」という言葉があります。こちらも虚偽の情報などを用いて、個人や集団の認識や行動を意図的に変えることを目的とした活動ですが、プロパガンダの方がより広範で包括的な概念です。インフルエンスオペレーションは「オペレーション(作戦)」という言葉が示すように、特定の目標達成のための計画的な作戦であり、より具体的で目的指向型の活動になります。プロパガンダは長期的な意識形成から短期的な行動変容まで、幅広い目的に適用される言葉であり、インフルエンスオペレーションの手法や戦略を包含する上位概念として捉えることができます。
参考記事:インフルエンスオペレーションとは
プロパガンダの歴史と事例
プロパガンダという言葉は17世紀にカトリック教会が「Congregatio de Propaganda Fide(信仰普及聖省)」を設立したときに、使われ始めたと言われています。当初は主に外国宣教における意味を持っていましたが、19世紀以降にナショナリズムの台頭と大衆メディアの発達を背景に政治的な意味合いを持つようになりました。
その意味合いの大きなターニングポイントは第一次世界大戦におけるプロパガンダでした。第一次世界大戦では政府が徴兵を行うにあたり、政治的なプロパガンダが効果的に使われ始めています。プロパガンダの象徴的な事例として広く知られている“I Want YOU for U.S. Army(アメリカ陸軍に君が必要だ)”のポスターも第一次世界大戦中のアメリカで作成されたものです。
I Want YOU for U.S. Army
米国議会図書館より引用
第一次世界大戦以降も、自国民の団結や支持の獲得や外国の世論操作、国際的な支持の獲得のために、各国が積極的なプロパガンダを進めました。特に冷戦時代には、アメリカとソ連という二大勢力の対立が激化し、政治的なイデオロギーの闘争が強調されました。この時期、プロパガンダは単なる情報伝達の手段を超え、国家のアイデンティティや価値観を形成するための重要な戦略として機能しました。
特に、宇宙開発やオリンピックは、国家の威信を高める手段として重要視されました。宇宙ミッションの成功やオリンピックでのメダル獲得は、国際社会における技術力やスポーツの強さを示す象徴となり、外交的な優位性を確保するために利用されており、国際的な影響力を拡大するためのプロパガンダの側面があったと考えられます。
プロパガンダの手法
1934年にアメリカで立ち上げられたプロパガンダ分析研究所(Institute for Propaganda Analysis)はプロパガンダについて次のような手法があると「Propaganda Analysis」という報告書の中でまとめています(例はトレンドマイクロにて記載)。
●ネーム・コーリング(Name-calling)
定義:相手を否定的な言葉で呼ぶことで、イメージを損なわせる手法
例:政治キャンペーンにおいて、対立候補を「無能なリーダー」や「国を売る裏切り者」と呼ぶことで、有権者の感情を刺激し、支持を減少させる。
●いかさま(Card stacking)
定義:都合の良い情報だけを選んで提示し、不都合な情報を隠す手法
例:自国の軍が行った戦闘の成功や英雄的行為を強調し、敵国の残虐行為や敗北を過大に取り上げることで、自国の戦争に対する支持を高める。
●バンドワゴン(Bandwagon)
定義:多数派に同調する心理を利用して、特定の考えや行動を促す手法
例:「国民全員が戦争に参加している」といったメッセージを流し、国民に戦争への参加や支持を促すことで、流行に乗ることを促進する。
●証言利用(Testimonial)
定義:有名人や専門家の発言を利用して、信頼性を高める手法
例:戦争の英雄や生存者が自国の戦争努力の重要性を語るドキュメンタリーを制作し、感情に訴えることで国民の支持を得る。
●平凡化(Plain folks)
定義:権力者や有名人が一般の人々と同じように振る舞うことで、親近感を演出する手法
例:軍人が「私たちもあなたと同じ普通の人間です」と語り、国民との共通点を強調することで、戦争への参加を促す。
●転移(Transfer)
定義:特定のシンボルや概念を利用して、感情を喚起する手法
例:国旗や宗教的なシンボルを使ったキャンペーンで、「この政策は私たちの国を守るためのものです」と訴えかけ、国民の愛国心を利用して支持を得る。
●華麗な言葉による普遍化(Glittering Generalities)
定義:美辞麗句を用いて具体性を欠いたメッセージを伝える手法
例:政府が「正義のための戦争」や「平和を守るための戦い」といった美辞麗句を用いて、具体的な戦争の目的や戦略を曖昧にし、国民の支持を呼びかける。
「Propaganda Analysis」が発行されたのは1938年ですが、これらの基本的なメッセージの手法は、大きな変化はなく現在においても使われ続けています。一方で、メッセージを伝達させるフォーマットは大きく変化しています。以前はポスターやテレビ・ラジオ放送、新聞広告などを介したプロパガンダが主流でしたが、現在はSNSやウェブサイト、ブログ、YouTubeなどのデジタルメディアがフォーマットの主流になっています。
デジタル領域におけるプロパガンダは、サイバープロパガンダと呼ばれ、特定の政策や選挙の結果への影響が懸念されることから民主主義国家にとって大きな問題となりつつあります。
参考記事:サイバープロパガンダの基礎知識
また、生成AIの登場によって、架空のコンテンツを短時間で多くの形式(テキスト、画像、動画など)で作成し、広めることが可能になりました。これにより、より短い期間で集中的にメッセージを発信することができるようになっており、ターゲットに対して強い印象を与えることができるようになっています。
また、プロパガンダの影響は、個人の意思決定にも及びます。政治的な選択や消費行動まで、プロパガンダは様々な場面で人々の判断に影響を与えます。誤った情報や歪められた事実に基づいて重要な決定を行えば、個人や社会に大きな損害をもたらす可能性があります。
これらの理由から、プロパガンダに対する適切な対策は、個人の自由な思考と判断を守り、健全な民主主義社会を維持するために不可欠です。情報リテラシーの向上や批判的思考力の育成、多様な視点を尊重する文化の醸成など、様々なアプローチを通じてプロパガンダの影響に対抗することが求められています。
企業がプロパガンダに巻き込まれるケースと対抗策
経済安全保障や地政学的な要因で、企業がプロパガンダの被害に遭うケースも散見され始めています。直近では、福島第一原発事故の処理水放水に関する情報が、国際的なプロパガンダの一環として利用されていました。処理水放水に合わせて「放射性物質の6割が除去されない」「魚が大量死している」といった誤情報が拡散されている事例を日本ファクトチェックセンターが報告しています。
このような誤情報や偽情報は、市民に不安を広げたり、反日感情を煽ったりするために悪用される懸念があります。結果として、日本企業製品の不買運動やボイコットに繋がりました。中には、この不買運動を受けて、中国における日本ブランドの化粧品の売上高が34%減少したという決算を発表した企業もあります。
このようなプロパガンダに巻き込まれた場合、企業が行うべきアクションは透明性の確保と発信だと言えます。透明性の確保については、自社に関する誤情報や偽情報の拡散が確認できた場合には、科学的なデータや専門家の意見、信頼できるファクトチェック機関と協力し、迅速に反証するための情報を提供すべきです。
また、特にプロパガンダの影響を受けやすい業界においては、業界団体、政府機関と連携することで、誤情報や偽情報に対抗するための強力なネットワークを構築することが重要です。このようなネットワークを構築しておくことで、同じ業界に属する企業の情報を集約し、プロパガンダの対抗策の共有や公的機関との共同発表による情報の信頼性が期待できます。
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