AI PCとは?~導入や利用にあたってのメリットやセキュリティ上の注意点を考察~
2024年6月18日、マイクロソフトはCopilot+ PCの販売を開始しました。新世代のAI PCとして注目を集めています。しかし、そもそもAI PCとはどのようなものでしょうか?一般的なPCと比較しながらメリットやセキュリティ上の注意点を考察します。
AI PCとは?
AI(人工知能)の研究自体は20世紀中ごろから行われてきました。それが一般の私たちの身近に感じられるようになったのは、機械学習技術のひとつであるディープラーニングの活用が可能になった2010年以降ではないでしょうか。さらに、2022年11月のChatGPTのリリース以降、個人の生活でも生成AIを容易に利用できるようになり、調べ物などに利用している人も多いでしょう。
では昨今話題のAI PCとはいったい何だろう? そう思っている方も多いのではないでしょうか。残念ながら現時点では、AI PCの明確な定義づけは難しいと言わざるを得ませんが、2024年8月までの状況を以下に整理します。
2024年2月末、インテル株式会社(以下インテル)とマイクロソフト株式会社(以下マイクロソフト)が定義したAI PCの条件は以下の通りでした。
・「Copilot」に対応していること
・「Copilotキー」を搭載すること
・CPUとGPUに加えてNPUを搭載すること
Copilotキーとは、Windowsのキーボードに搭載されるCopilotを呼び出すキーです。
NPUとは、Neural network Processing Unitの略で、AIプロセッサとも呼ばれ、AIの推論処理を高速化するために設計されたプロセッサです。エッジ側(端末側のスマートフォンやPCなど)でAI処理(推論)を行うための装置です。
ところが、約3か月後にマイクロソフトが発表したAI PCの新しい要件は次の通りです。
・Microsoftが承認したCPUまたはSoC(System on a Chip)。40TOPS(1秒当たり40兆回)以上の推論処理を行えるNPUの搭載が必要
・16GB以上のDDR5/LPDDR5規格メモリ
・256GB以上のSSD/UFSストレージ
さらに、AI PCの要件を次のように定めたメーカーもあります。
・CPUとGPUに加えてNPUを搭載すること
・NPUが10TOPS以上であること
以上のことから、AI PCの明確な定義はない、もしくは適宜変化するものの、一定以上の性能のNPUを搭載しているPC、ということは言えるかと思われます。また、今後もAI PCの要件は変わっていく可能性があります。
なお、マイクロソフトは2024年5月20日に、AIのために設計された新しいカテゴリのWindows PCであるCopilot+ PC(コパイロットプラス ピーシー)を6月18日に販売開始すると発表しました。Microsoft Surface、ならびに各OEMパートナーからCopilot+ PCの製品が提供されると述べ、Copilot+ PCの特長として、高速化、省電力化、初期状態でのセキュリティ設定などを挙げ、新機能として、Recall機能(PC上で見たことや行ったことなど、過去のアクティビティに素早くアクセス)や、Cocreator(画像作成AI)などを紹介しています。
AI PC導入のメリットは?
AI PCの特長に鑑みて、「AI処理の高速化」「電力消費の低減」「情報セキュリティの向上」がメリットと考えられます。
AI処理の高速化
AI処理には膨大な計算量が必要なため、NPUを搭載することによって、通常のPCよりも処理を高速に行えます。また、生成AIを使用する際、従来のPCではデータがクラウドにアップロードされ、クラウドに設置されたプロセッサで処理され、その結果がPCに返されますが、AI PCでは、PC上のプロセッサ(NPU)で生成AIが利用できます※。ローカルで処理できるため、クラウドとのやりとりで発生する通信の遅延、通信コストの増大、AIのレスポンスの低下などがなく、処理速度の向上が期待できます。
もっとも、AI PCとはいえ常時AI機能を使うわけではないと考えられるので、導入を検討する際には、AI処理の高速化以外のスペックなども考慮する必要があるかもしれません。
※デバイス上でAI処理を実行するシステムは「エッジAI」と呼ばれ、自動運転、IoT、製造業での製品検査などでも活用が進んでいます。
電力消費の低減
従来のPCでは、CPUとGPUの2種類のプロセッサが使われていました。デバイス上でAI処理を行うと、CPUやGPUでは負荷が大きすぎ、処理に時間が掛かる上に消費電力がかさみます。NPUは、上述のようにAIの推論処理を高速化するために設計されたプロセッサであるため、それを搭載したAI PCでは消費電力を抑えることができます。
情報セキュリティの向上
ChatGPTなどの一般公開されている生成AIをクラウド上で処理する場合、情報を組織の外に出すことになるため、セキュリティ上の懸念があります。仮に従業員が、AIへのプロンプト(指示)に自組織の機密情報を入力したり、機密情報を含むファイルをアップロードしたりすると、情報漏洩につながりかねません。それを防止するために、クラウドや生成AIの利用が制限されている組織もあるでしょう。繰り返しになりますが、AI PCではデバイス上で生成AI処理が行えるため、組織の外に情報を出さないという点で、リスクを軽減できることが期待されます。
AI PC導入時の注意点は?
一般的なPCは、インテルやAMD社の「x86」のアーキテクチャを採用したCPUを搭載しています。一方、マイクロソフトのCopilot+ PCでは、Qualcomm社のSnapdragon※というCPUを搭載していますが、このCPUのアーキテクチャは「ARM」と呼ばれるものです。CPUのアーキテクチャが異なると、アプリケーションの互換性が問題になってきます。
つまり、一般的なPCで使用していたアプリケーションが、Copilot+ PCでは動作しないものが出てくるということです。業務に利用しているアプリケーションが対応していなければ、業務用PCとして採用することは困難です。とりわけ、セキュリティ対策製品に互換性がなければ、組織のサイバーセキュリティに影響が出るため採用は避けるべきと言えます。
※Microsoftが承認したCPUまたはSoCには、2024年8月現在、Snapdragon X Plus と Snapdragon X Eliteのみが含まれます。
もっとも、ソフトウェアメーカーも対応を始めています。上記2024年5月20日のマイクロソフトの発表では、Adobe社の3つのアプリケーションがCopilot+ PCに提供されている点と、同社の他のアプリケーションも追って提供を開始する旨を述べています。
トレンドマイクロではすでに、コンシューマユーザ向けの「ウイルスバスター トータルセキュリティ」で、ARMプロセッサに対応しています。法人向け製品も順次対応予定です。同様に、他のソフトウェアメーカーも、Copilot+ PCに対応できるよう順次対応を進めていくと考えられます。
AI PCを取り巻く環境は、その要件や定義も含めて、今後も急速に変化していくことが予想されます。利用する側は常に最新の情報を収集し、導入の目的を明確にし、メリット、デメリット、注意点などを慎重に検討する必要があるでしょう。
Security GO新着記事
EDRを入れればセキュリティ対策は安心?セキュリティ神話がもたらす危険性
(2024年12月11日)
世界のサイバーリスク動向を”データ”で読み解く~世界サイバーリスクレポート2024年版より~
(2024年12月9日)
事例から考えるサービスサプライチェーンリスクによる影響とその対策
(2024年12月6日)