Artificial Intelligence (AI)
セキュリティ専門AI「Trend Cybertron」のオープンソース化が示す方向性
トレンドマイクロは、サイバーセキュリティ専門のAIである「Trend Cybertron」を発表していますが、これまでTrend Vision Oneの顧客に限定されていたTrend Cybertronの一部のモデル、データセット、エージェントが、現在オープンソースとして利用可能になりました。高度なセキュリティソリューションの構築に活用できるほか、次世代のAIセキュリティ技術の開発にも参加いただけます。
Trend Cybertron:Trend Vision Oneの「サイバーブレイン」がオープンソースAIセキュリティを再構築
トレンドマイクロは、AIがますます重要性を増す現代において、サイバーセキュリティの在り方を革新する新たな取り組み「Trend Cybertron」を発表しました。Trend Vision Oneのユーザには、統合型のTrend Cybertronサイバーブレインが提供されています。
そしてこのたび、トレンドマイクロはTrend Cybertronの一部コンポーネントをオープンソースとして公開しました。公開される内容には、サイバーセキュリティに特化したLLM(大規模言語モデル)、豊富な学習用データセット、Cloud Risk Assessment AI Agentのような実用的なツールが含まれます。開発者やセキュリティの専門家にとって、これはこれまでにない機会となります。既存のセキュリティツールの高度化や、カスタムアプリケーションの開発、あるいは研究活動において、セキュリティ指標で高い成果を示しているモデルを活用できるようになりました。拡大し続けるこのコミュニティに参加することで、AIとサイバーセキュリティの交差点をともに切り開いていく、協働のエコシステムに貢献することができます。
Trend Vision OneにおけるTrend Cybertronとは?
Trend Cybertronは、業界初のプロアクティブ型サイバーセキュリティAIとして、Trend Vision Oneプラットフォームに完全統合されています。このプラットフォームは、脅威の予測的な検出と対応のために設計されており、Trend Cybertronは、サイバーセキュリティに特化したLLM(大規模言語モデル)、データセット、機械学習技術、自然言語処理、AIエージェントなどで構成されています。これにより、豊富なセキュリティ知見と、Trend Microが世界規模で蓄積してきた脅威インテリジェンスや脆弱性調査の成果が結びついています。この技術は、20年にわたるAIへの投資と、35年に及ぶ業界トップクラスの脅威インテリジェンスを基盤として築かれています。
Trend Vision Oneと連携することで、Trend Cybertronは、現在の脅威に対応するだけでなく、将来的なセキュリティ課題を積極的に予測し、防御する統合型のインテリジェントなセキュリティソリューションを提供します。将来を見据えたこのアプローチと、メール、ネットワーク、エンドポイント、AIセキュリティといった幅広い領域を網羅する包括的なカバレッジによって、Trend Cybertronは現代の企業セキュリティアーキテクチャにおいて不可欠な要素となっています。
このように連携・統合されたインテリジェンスシステムは、急速に複雑化するデジタル環境において、既知および未知の脅威の両方から組織を守るための、最先端AI技術を活用した包括的かつプロアクティブなセキュリティソリューションの提供に向けたトレンドマイクロの取り組みを体現しています。
Trend Vision Oneのユーザにとって、Trend Cybertronはプラットフォームに完全に統合されており、統一されたサイバーセキュリティ基盤の中でそのメリットをシームレスに体験いただけます。
オープンソースにおけるTrend Cybertronの特長とは?
トレンドマイクロは、コミュニティの力を信じています。だからこそ、Trend Cybertronの一部モデル、データセット、エージェントをオープンソースコミュニティに提供することに意義があると考えています。AI主導のサイバーセキュリティ分野における協業と革新を促進することで、より大きな取り組みの一員としてご参加いただきたいと考えています。
Trend Cybertron Open-Sourceの各コンポーネントは、以下の3つの主要なチャネルを通じて提供されています。
1. NVIDIA NIMカタログ
- Llama 3.1を用いたファインチューニング済みモデルで、NVIDIA NIM推論マイクロサービスによるデプロイに最適化されています。
- 80億パラメータのAIモデルを含み、今後はさらに高度な700億パラメータ版の提供も予定されています。
- 複数のAIエージェント設計テンプレートが含まれており、シームレスな統合とセキュリティ業務の自動化を実現します。
- 組織がセキュリティ体制を強化し、アラートの過多を抑制し、開発者の工数を削減しつつ、既存のセキュリティセンサーからより多くの価値を引き出すことを可能にします。
2. Hugging Face
Trend Cybertronの限定的なデータセットおよびモデルが、「Primus」コレクションの一部として提供されています:
モデル:
- trend-cybertron/Llama-Primus-Base:Llama-3.1-8B-Instructに基づくテキスト生成モデルで、サイバーセキュリティ関連テキスト27.7億トークンを用いて継続的に事前学習されており、セキュリティベンチマークにおいて15.88%の改善を実現しています。
- trend-cybertron/Llama-Primus-Merged:Llama-3.1-8B-Instructの能力を維持しつつ、命令追従型のテキスト生成を可能にしたモデルで、セキュリティベンチマークで14.84%の改善を記録しています。
- trend-cybertron/Llama-Primus-Reasoning:セキュリティ業務に必要な推論と内省データに基づいて蒸留されたテキスト生成モデルで、CISSP(公認情報システムセキュリティ専門家)模擬試験において、人間と比較して10%の精度向上を達成しました。
データセット:
- trend-cybertron/Primus-Seed:Wikipedia、MITRE、セキュリティ企業の公式サイト、CTIなどの信頼性の高い情報源から手作業で収集された高品質なサイバーセキュリティテキスト。
- trend-cybertron/Primus-FineWeb:FineWebから抽出・フィルタリングされた25.7億トークンのサイバーセキュリティテキスト。
- trend-cybertron/Primus-Instruct:サイバーセキュリティの業務シナリオに関する約1,000件のQAペアを収録。
- trend-cybertron/Primus-Reasoning:サイバーセキュリティ業務における推論と内省に関するデータを収録し、蒸留学習に活用。
- Primusコレクションの詳細については、Trend Micro AI LabチームがCornell大学のarXivポータルで公開しているホワイトペーパーをご覧ください。
3. GitHub
- Trend Cybertron - Cloud Risk Assessment AI Agent:ソースコード、コンテナ、Kubernetesクラスタ、AWSインフラをスキャンし、CVE脆弱性、設定ミス、セキュリティリスクを検出するオープンソースプロジェクトです。
- リスクを統合・優先順位化した評価レポートを提供し、対応策や修正用コードスニペットも提示されます。
- セキュリティ課題の調査に活用できるインタラクティブなチャットインターフェースを搭載しています。
- 次世代AI開発者、クラウドインフラ運用者、セキュリティチーム向けに設計されています。
- 既存のセキュリティツールに高度なAI機能を組み込んで強化する。
- サイバーセキュリティに特化したモデルを活用し、カスタムセキュリティアプリケーションを開発する。
- サイバーセキュリティAIのトレーニングおよび教育に活用する。
- 新たなセキュリティ技術の研究開発に取り組む。
- DevSecOpsパイプラインに統合し、セキュリティ評価を自動化する。
- 信頼できるサイバーセキュリティの専門性:Trend Microが長年にわたり磨き上げてきたセキュリティ基盤をもとに、安心して開発を進めることができます。オープンソースとして提供されるサイバーセキュリティ向けのLLM、データセット、AIエージェントは、数十年に及ぶ脅威インテリジェンスと、世界中の数百万のエンドポイントを保護してきた実績に裏打ちされています。現実の環境で検証されたセキュリティ知見を活かすことができます。
- 専門モデルへのアクセス:セキュリティベンチマークで顕著な成果を示した、サイバーセキュリティ特化のLLMを活用できます。
- 実用的なユースケース:スレットインテリジェンス分析、脆弱性評価、マルウェア検出、インシデント対応など、現場で求められる課題に対応するツール群が揃っています。
- 協働によるイノベーション:業界の専門家や独立系研究者が参加し、AIとサイバーセキュリティの未来をともに築いていくコミュニティに加わることができます。
- エンタープライズグレードの基盤:35年にわたるセキュリティ分野での実績を持ち、Fortune Global 500の上位25社のうち20社から信頼されている技術を活用できます。
- 国際標準への貢献:AIセキュリティに関する国際標準やポリシーの形成にも関与できる、意義あるプロジェクトへの参加が可能です。
Trend Cybertron Open-Sourceは、堅牢なセキュリティ機能をアプリケーションに組み込みたいと考える開発者にとって、最適なスタート地点です。また、Trend Vision Oneに完全統合されたバージョンは、包括的な保護を求める企業向けにエンタープライズソリューションを提供しています。
イノベーションを支えるチーム
この画期的な技術の背後には、サイバーセキュリティ、人工知能、ソフトウェア開発における専門性を併せ持つ、Trend Microの優れたイノベーターチームがいます。技術的な卓越性とオープンな協働への取り組みを通じて、AIを活用したサイバーセキュリティ分野におけるTrend Microのリーダーシップが示されています。
- Open Cybertron プロダクトマネジメントリーダー
- David Girard – Product Manager
- Fernando Cardoso – Product Manager
- Open Cybertron タスクフォース
- Jason Yueh – Sr Distinguished Technologist
- Stephanie Chou – Sr Manager (AI Labs)
- Patrick Lu - Project Lead
- Spark Tsao - Project Lead
- Kevin K Chang - Domain Expert
- Willy Kao - Domain Expert
- Hank Yang – LLM/NIM Inference and model evaluator
- Addison Kao – LLM/NIM Inference and model evaluator
- Trend Micro AI Lab チーム
- Liam Huang - AI Research Lead
- Yao-Ching Yu - LLM Training Expert
- Dennis Tsai – AI Researcher
- James Chiang - Data Engineering Lead
このオープンソースのムーブメントに参加しませんか
次世代のセキュアなAIアプリケーションを開発している方、組織のセキュリティ体制を強化したい方、あるいはオープンな協働を通じてサイバーセキュリティの進化に貢献したいという熱意をお持ちの方にとって、Trend Cybertron Open-Sourceは、力強い基盤となるはずです。
このコミュニティに参加することは、自身のプロジェクトを向上させるだけではありません。AIが牽引する未来のサイバーセキュリティのあり方を共に築いていくことにもつながります。
まずはGitHub、Hugging Face、そしてNVIDIAのNIMカタログで提供されている各種リソースをご覧いただき、Trend Cybertronにぜひ触れてみてください。
参考記事:
Trend Cybertron: Full Platform or Open-Source?
By: Dave McDuff
翻訳:与那城 務(Platform Marketing, Trend Micro™ Research)