サイバー脅威
サイバーレジリエンスなスマートグリッドを介したエネルギー変換
スマートグリッドは需要増加の一方で、サイバー攻撃による被害が懸念されます。企業や組織はスマートグリッドの脆弱性を把握し、セキュリティ対策の詳細を理解して、将来に備えることが重要になります。
信頼性の高い手頃なエネルギー源への需要増加に伴い、世界中の国々がますますスマートグリッドに注目しています。スマートグリッドは、社会がエネルギーにアクセスする方法に革新をもたらし、効率的で信頼性があり、費用対公開の高いエネルギー資源の管理を実現します。しかし、これらの進化にはリスクも存在します。スマートグリッドのインフラは、サイバー攻撃に対して脆弱であり、適切な保護策が講じられていない場合には高額な損失を引き起こす可能性があります。
エネルギー変革の実現:サイバーレジリエンスなスマートグリッドの構築に取り組む
2023年4月、トレンドマイクロの関連会社として運用技術(OT)セキュリティに特化したTXOne Networksからレポート(英語)が公開されました。本稿では、このレポートについてスマートグリッドの主要な脆弱性と関連するサイバーセキュリティの基準について議論します。また、この重要なインフラを不正活動や攻撃から保護するために必要な対策について概説します。
スマートグリッドの脆弱性
今日のスマートグリッドは、デバイス、通信ネットワーク、システム運用に関連したいくつかの脆弱性に直面しています。以下にレポートで強調されている脆弱性の一部を挙げます:
再生可能エネルギー発電
風力や太陽光などの再生可能エネルギー発電は、スマートグリッドにおいて重要な役割を果たしていますが、これらには攻撃者が利用できる新たな脆弱性も存在しています。以下に、再生可能エネルギー発電に関連した脆弱性の一部を示します:
- 風力発電制御装置の脆弱性:風力タービンは、攻撃者が悪用可能な脆弱性を持つ可能性のある産業制御システムによって制御されています。例えば、攻撃者は制御システムを操作して風力タービンの出力を変更し、グリッドに不均衡を引き起こし、結果的に停電を引き起こす可能性があります。
- 太陽光発電の脆弱性:太陽光発電システムも、攻撃者が悪用可能な脆弱性を持つ可能性のある産業制御システムに依存しています。例えば、攻撃者は制御システムを操作して太陽光パネルに過剰または不足なエネルギーを発生させることを引き起こし、グリッドに不均衡を引き起こす可能性があります。
配電自動化(DA)および送電自動化(FA)
配電自動化(DA)および送電自動化(FA)は、変電所から顧客までの電力配布を自動化するスマートグリッドの重要な構成要素です。しかし以下の理由により、悪用される可能性もある脆弱性が存在しています:
- 安全でない産業制御プロトコル:DAおよびFAシステムは、セキュリティ機能を持っていない可能性がある産業制御プロトコルを使用しており、攻撃に対して脆弱となります。例えば、攻撃者は未認証のコマンドを使用してDAおよびFAシステムを操作し、停電や他の混乱を引き起こす可能性があります。
- リモートサービスの脆弱性リスク:多くのDAおよびFAシステムは、クラウドベースのアプリケーションなどのリモートサービスに接続されており、攻撃に対して脆弱性が存在する可能性があります。攻撃者は、これらのリモートサービスの脆弱性を悪用してDAおよびFAシステムにアクセスし、混乱を引き起こす可能性があります。
エネルギー貯蔵システム管理
エネルギー貯蔵システム管理は、再生可能エネルギー源からの余剰エネルギーを後で使用するために貯蔵を可能にするスマートグリッドの重要な構成要素です。しかし、以下の理由により、攻撃に対して脆弱となる可能性があります:
- 安全でない通信プロトコル:エネルギー貯蔵システムは、他のスマートグリッドコンポーネントと通信するために通信プロトコルを使用します。これらのプロトコルはセキュリティ機能を備えていない場合があり、そのため攻撃に対して脆弱となります。例えば、攻撃者はエネルギー貯蔵システムと他のスマートグリッドコンポーネント間の通信を傍受し、システムの不正なアクセスまたは制御を可能にする可能性があります。
- 物理的なセキュリティリスク:エネルギー貯蔵システムは遠隔地や不安全な場所に設置されている可能性があり、これにより物理的な攻撃に対して脆弱となります。攻撃者はエネルギー貯蔵システムを破壊または損傷させることで、停電や他の混乱を引き起こす可能性があります。
先進的なメータリングインフラ(AMI)管理システム
これは、スマートメーターからユーティリティーへのエネルギー使用データの収集と送信を可能にする、スマートグリッドのもう一つの重要な構成要素です。しかし、以下の理由により、攻撃に対して脆弱となる可能性があります:
- 安全でない通信プロトコル:AMIシステムは、スマートメーターとユーティリティ間のデータを伝送するための通信プロトコルを使用します。これらのプロトコルはセキュリティ機能を持っていない場合があり、そのため攻撃に対して脆弱となります。例えば、攻撃者はスマートメーターとユーティリティ間の通信を傍受し、システムの不正なアクセスまたは制御を可能にする可能性があります。
- 不正なアクセス:AMIシステムは不正なスタッフによってアクセス可能となる場合があり、これにより攻撃に対して脆弱となります。攻撃者はAMIシステムに物理的にアクセスし、スマートメーターまたはシステムが収集したデータを改ざんすることができます。
これらの脆弱性を解決することは、スマートグリッドのレジリエンスとセキュリティにとって極めて重要です。堅牢なサイバーセキュリティ対策を実施することで、これらの脆弱性を大幅に軽減し、サイバー脅威から保護することができます。
NERC CIP規格
スマートグリッドのセキュリティには多数の規格と規制が関与しており、本稿では代表的な例としてNERC-CIP規格を取り上げます。NERC CIP規格は北米の電力会社で義務となります。リスク評価、アクセス制御、インシデント対応、脆弱性評価の要件を含むこの規格は大容量電力システムをサイバー脅威から保護します。
以下に、NERC CIP規格の一部を示します:
これら全てが再生可能エネルギーに適用されるわけではありませんが、電力ユーティリティにとってのサイバーセキュリティの基準となります。以下に、これを参考にしたサイバーハイジーンの例をいくつか説明します。
- 堅牢な認証とアクセス制御の実施:強力なパスワード、多要素認証、そしてスマートグリッドシステムへの不正アクセスを防ぐためにアクセス権限を認可された人員のみに限定するなどが含まれます。
- ソフトウェアとシステムの定期的な更新とパッチ適用:既知の脆弱性に対応し、既知のエクスプロイトから保護することができます。全てのソフトウェア、ファームウェア、システムを最新のセキュリティパッチや更新で最新の状態に保つことが必要です。
- 定期的なセキュリティ評価と監査の実施:脆弱性評価、ペネトレーションテスト、セキュリティ監査が含まれ、スマートグリッドのインフラに存在する可能性のある弱点や脆弱性を特定し、対処します。
- インシデント対応計画の確立:明確に定義された計画は、スマートグリッドシステムのサイバーセキュリティインシデントや違反を迅速に検出し、対応し、軽減するのに役立ちます。
- ネットワークのセグメンテーションと分離の実施:重要なシステムを隔離し、ネットワーク内の横方向の移動を最小限に抑えることで、サイバーセキュリティ侵害の影響を限定するのに役立ちます。
- 通信とデータの暗号化:通信中および保存中のデータを暗号化することで、不正アクセスやデータ侵害から保護します。スマートグリッドインフラ内のデバイス、ネットワーク、システム間の通信には暗号化を実装するべきです。
- 人員の訓練と教育:スマートグリッドシステムの運用とメンテナンスに関与する従業員や関係者に定期的な訓練と教育を提供することで、サイバーセキュリティのベストプラクティスと、サイバーセキュリティポリシーと手順の遵守の重要性についての認識を高めることができます。
- バックアップと災害復旧計画の実施:重要なデータとシステムの定期的なバックアップと、明確に定義された災害復旧計画があれば、サイバーセキュリティインシデントやシステム障害から迅速に回復することが可能です。
対策
さらに、スマートグリッドや他の重要インフラをサイバー脅威から保護するためには、サイバーセキュリティに対する積極的かつ包括的なアプローチが必要です。ゼロトラストの原則は、スマートグリッドなどの運用技術(OT)環境のサイバーセキュリティ姿勢を大幅に強化することができます。
OT向けのゼロトラストは、厳格なアクセス制御、継続的な監視、および認証メカニズムを実装し、OTネットワークの最高レベルのセキュリティを確保することを含みます。ゼロトラストのアプローチを採用することで、組織は不正アクセス、ネットワーク内の横展開、および他のサイバー脅威のリスクを最小限に抑え、最終的にはOTシステムの完全性、可用性、および機密性を保護することができます。
トレンドマイクロは、ITとOT環境間のサイバーセキュリティ能力を拡大することができる一連のソリューションを提供しています。ITとOT環境の両方を保護するための当社の専門知識は、スマートグリッドエコシステム全体の脆弱性に対応する包括的なアプローチを可能にします。OTゼロトラストからクロスドメインXDRへの道筋を解説する動画はこちらからご覧いただけます。
革新的なソリューションにより、組織は堅牢な認証とアクセス制御を実装し、継続的な監視と監査を行い、インシデント対応計画を確立して、OTネットワークをサイバー脅威から効果的に保護することができます。
エネルギー変換を達成し、サイバーレジリエンスなスマートグリッドを構築する方法について詳しく知るには、TXOne Networksによる詳細なリサーチペーパー「Achieving Energy Transformation: Building a Cyber-Resilient Smart Grid」(英語)を参照してください。
参考記事:
Energy Transformation via Cyber-Resilient Smart Grid
By: Trend Micro
翻訳:与那城 務(Core Technology Marketing, Trend Micro™ Research)