Raspberry Piのセキュリティ(前編)-Raspberry Piの国内利用実態を紐解く-
Raspberry Piと呼ばれるシングルボードコンピュータはご存じでしょうか。主にホビーや教育用途がきっかけで普及してきましたが、今ではお手頃な価格とその性能や扱い易さから、DX(Digital Transformation)やIoTを推進するツールのひとつとして存在感が高まりつつあります。
シングルボードコンピュータ「Raspberry Pi」
Raspberry Piと呼ばれるシングルボードコンピュータはご存じでしょうか。皆様の中にはご存じの方、あるいは既に組織内で活用されている方もいらっしゃるかもしれませんが、ITの世界においてこのRaspberry PiはiPhoneのように市民権を得るほど爆発的普及には至っていないのが実状です。しかし、Raspberry Pi財団が発表した2019年のAnnual Review(*1)によると全世界では3千万台以上のRaspberry Piが使われており、最新モデル(*2)は2019年に全世界で170万台販売されたそうです。Raspberry Piは主にホビーや教育用途がきっかけで普及してきましたが、今ではお手頃な価格とその性能や扱い易さから、DX(Digital Transformation)やIoTを推進するツールのひとつとして存在感が高まりつつあります。
意外と身近なRaspberry Pi
皆さんの普段の生活エリアなどの身近なところでRaspberry Piが使われていることを知っていますか?例えば、駅の改札におけるデジタルサイネージの発車時刻を表示する仕組み(*3)や、実証実験中である街中の「絶対あふれないゴミ箱」(*4)に使われています。Raspberry Piは小型といえど通常のコンピュータなので、アプリケーションやセンサーなどを追加し様々な場所や用途で利用することが可能なため、意外にも生活の身近なところで使われています。その多くはバックヤードやベール(ケース)に包まれて稼働しているためRaspberry Piの存在を知る機会は少ないと思いますが、何らかの不具合でシステムが再起動している際にディスプレイ上でRaspberry Piのロゴを目撃した経験がある方もいるかもしれません。
トレンドマイクロでは2020年4月にIoTを利活用している、またはIoTの取り組みに関与されている企業ユーザを対象にWebアンケートによるRaspberry Piの利用実態調査(有効サンプル数309)を実施しました。本記事では、調査の結果を紐解いて、Raspberry Piの利用実態を考察していきたいと思います。
主な活用シーンはオフィス内や工場
IoTを利活用している、またはIoTの取り組みに関与されている方に対してRaspberry Piの導入状況・予定に関して質問したところ、4割近くのユーザは既に導入済であり、およそ8割近くのユーザが「導入済みもしくは導入予定がある」という結果になりました。このことから、国内のIoTに関わる方にとってRaspberry Piが身近なものであることが分かります。
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続いて導入場所について見てみると、「オフィス・オフィスビル」が42.4%、「工場・製造所」が39.8%、次いで「店舗・商業施設」「倉庫・物流施設」「生活インフラ設備」などが続きました。
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オフィス内にRaspberry Piを導入するイメージが持てない方もいるかと思います。オフィス内での活用方法として、例えば当社でもWebカメラでオフィス内のお弁当販売スペースの画像を社内のイントラネットにアップロードし、社員が混雑状況や販売状況を確認できる仕組みを稼働させていますが、このシステムにもRaspberry Piを活用しています。また、昨今の新型コロナウイルスの感染拡大を抑止するためリモートワークの導入が急速に進んでいますが、Raspberry Piを使った仮想デスクトップ(VDI : Virtual Desktop Infrastructure)をリモートワークに活用する企業も見受けられます。他にもオフィス内のトイレ空き状況をIoTで見える化する取り組みも良く耳にしますが、こうしたシステムにもRaspberry Piが使われていることがあります。この他にもオフィス空間を快適にする仕組みや作業を効率化する仕組みにRaspberry Piが活用されている場合もあるでしょう。
IoTゲートウェイからシンクライアントまで
工場・製造所でのRaspberry Piの利用は、いわゆるIIoT(Industrial IoT)として工場の生産状況の見える化や工作機械の故障を事前に察知する予兆保全の仕組みなどにRaspberry Piが利用されています。Raspberry Piの利用用途を尋ねたところ、「センサー情報をローカルで収集・処理するIoTエッジPC」が43.7%と最も多く、次いで「IoTエッジゲートウェイ」「IoTエッジサーバ」となりました。
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既設の生産設備に後付けでセンサーやカメラを設置して生産状況を見える化する仕組みを構築する際に、センサーデータを集約・蓄積する装置としてこれまでは高価で耐久性に優れた数十万円の産業用PCがエッジサーバとして使用されてきました。しかし、より安価かつオープンソースとしてノウハウやナレッジが入手しやすく開発柔軟性が高いRaspberry Piのようなシングルボードコンピュータで代替していく動きが広がっているのではないかと推測されます。もちろん、Raspberry Piを産業用途で利用する場合、設置場所や用途によっては稼働安定性、電源安定供給、振動・防塵対策などの課題が導入のネックになることもあります。こうした想定外の課題や問題を解決しながら、いわゆる”アジャイル”に開発を進めていくスタイルには、手軽で開発柔軟性の高いRaspberry Piは適しているのかもしれません。
企業におけるRaspberry Piの利用台数について
Raspberry Piの利用台数および利用予定台数についても調査しました。Raspberry Piの利用場所に関する回答で特に多かった「オフィス、オフィスビル」と「工場、製造所」におけるRaspberry Piの利用台数および利用予定台数は、オフィス、工場ともに100台未満の利用が全体の7割強を占めています。一方で、「オフィス、オフィスビル」は4.7%、「工場、製造所」は4.1%において「1,000台以上利用している/利用予定がある」と回答しています。ホビーや工作用途でRaspberry Piを使う個人ユーザの方は1~2台の利用が多いですが、オフィスや工場の商用環境で利用する場合は1拠点に数百台、中には大規模に数千台展開するというケースもあることが分かります。Raspberry Piを実証実験用途で使用する方も多く、まずは数台をオンライン購入してIoTシステムを構築し、検証を重ねながら商用環境への適用を検討していくという進め方が一般的のようです。
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人気のあるRaspberry PiのOSは?
Raspberry Piは一般的なPCと違ってOSがプリインストールされている訳ではなく、Raspberry Pi購入後に利用用途や開発環境に適したOSを選択してSDカードにインストールします。中には「スターターキット」と呼ばれる、あらかじめOSや必要なアプリケーションがSDカードにCopyされた状態で販売されているものもあります。ユーザにRaspberry Piで利用している/利用予定のOSについて聞いたところ、トップは標準OSの「Raspberry Pi OS(旧Raspbian)」で、次いで「Windows10 IoT Core」でした。標準のRaspberry Pi OSを採用した理由は、「公式OSだから」「実績があるから」「公開情報が多いから」という理由が多く、Windows 10 IoT Coreを採用した理由は「他のシステムと連携しやすい」「C#/C++、Visual Studioで開発できる」「Windowsの信頼性」などの理由が見られました。上位にあがっているOSはRaspberry Piの公式OSインストーラーである「NOOBS」に含まれているOSが多く並んでいます。開発環境や用途によってOSを自由に選択できることもRaspberry Piのメリットのひとつです。
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「IoTの普及」に貢献しているRaspberry Pi
これまでも述べてきた通り、Raspberry Piの特性は「低価格」「高性能」「オープンソースエコシステムの充実」が挙げられます。「手軽に始められる」「失敗しても損失を最小限に抑えられる」などの低価格な特性のメリットも大きいですが、それ以上に、オープンソースならではのメリットとして数多くの技術情報や先人のノウハウが公開されており、それらの公開情報を活用しながら効率的に開発が進められることによる時間やリソースの削減・節約がRaspberry Piを採用する最大のメリットと言えます。また、周辺機器やパーツ類も充実しており、現場で試行錯誤しながら開発できるところも大きな魅力です。Raspberry Piは「魔法のツール」ではなく所詮小型コンピュータですが、そのシンプルさや開発柔軟性によって様々な可能性を秘めており、簡単にIoT化に取り組むことができることや、ノウハウや知見を共有していくコミュニティが発展しているという意味においてもIoTの普及に貢献していると言っても過言ではないでしょう。今回の前編ではRaspberry Piの利用実態について解説しました。後編ではRaspberry Piのセキュリティに対する認識と、Raspberry Piに求められるセキュリティ対策について解説していきたいと思います。
※1 Raspberry Pi Foundation Annual Review 2019
※2 最新モデル=Raspberry Pi 4 Model Bと3 Model A+
※3 「Raspberry Pi」を利用したデジタルサイネージ導入事例【北九州高速鉄道株式会社】
※4 沖縄国際通りに設置された『絶対あふれないごみ箱』?