台湾COMPUTEX2025現地レポート
2025年5月20日~23日に台湾で開催された世界最大級のコンピュータおよび情報技術関連の展示会COMPUTEX TAIPEI2025。基調講演や展示内容をご紹介します。

2025年5月20日から実施された台湾のIT展示会であるCONPUTEX。本稿では、同時開催されたNVIDIA GTC内のジェンスン・フアン氏の基調講演と直前のトークイベントであるPregame、COMPUTEX内でのGartner®の講演、当社の展示ブースの模様などをレポートします。
NVIDIA GTC Pregame:トレンドマイクロのCEO、エバ・チェンが登場
今年のCOMPUTEXでは「NVIDIA GTC(GPU Technology Conference)」も同時に開催されました。NVIDIA GTCではCEOのジェンスン・フアン氏の基調講演、多数のセッションや展示、実践的な技術トレーニング、ネットワークイベントなども行われ、AIとその恩恵の実例を探求する場です。
今回は、基調講演のまえにPregameとしてライブトーク・ショーが行われ、台湾に拠点を置く、または台湾にゆかりのある様々なテクノロジー企業のリーダーたちが招かれました。これらの企業には、Dell、TSMC、ASUS、Foxconnのほか、トレンドマイクロも含まれます。世界に名だたる企業のリーダーたちがホストを相手に、時にゲスト同士で語り合う様子がライブ配信されました。
トレンドマイクロのCEO エバ・チェンは、このPregameに招かれた唯一のセキュリティリーダーとして、どのようにAIを守るのか、そのためにNVIDIAとどのように協業しているのかをホストに聞かれました。AIのためのセキュリティ、それは人間にたとえるなら「脳や神経系統すべてを守るようなもの」とエバは答えます。
「サイバーセキュリティは、BIOS、OS、ドライバなどのインフラストラクチャ・ソフトウェアと、そのうえで動作するアプリケーション・ソフトウェアのあいだで、すべての情報の流れを保護します。こうしたすべてのデータを解析するには膨大なコンピュータパワーが必要です。トレンドマイクロではNVIDIAと協業し、NVIDIA AIおよびアクセラレーテッドコンピューティングインフラを活用しており、脅威の特定と対応を向上するためにこうしたデータをより効率的に処理・分析しています。トレンドマイクロが開発したサイバーセキュリティ専門のLLM『Trend Cybertron(トレンド サイバトロン)』もこのようにして開発されています。」このようにエバは語りました。

さらに、過去にNVIDIAのCEO ジェンスン・フアン氏が「ソブリンAI」に言及していたように、トレンドマイクロが広く展開する欧州やAMEA(アジア太平洋、中東、アフリカ)地域における、政府部門のソブリンAIに対する高い需要にも触れました。将来、ひとつの大きいオープンのAIだけではなく、それぞれの国や企業のドメインの知識を備えた独自のAIが求められるようになるだろうという展望を語り、Pregameの結びとしました。
<関連記事>ソブリンクラウドとは?プライベートクラウドやガバメントクラウドとの違いを解説
<参考記事>
・NVIDIAプラットフォームを活用したセキュリティの強化
・サイバーセキュリティのAIエージェント「Trend Cybertron™ 」を提供~能動的なサイバーセキュリティAIにより業界を牽引~
・トレンドマイクロ AI ✕セキュリティ戦略を発表~Security for AI、AI for Securityの両軸でソリューションを提供~

GPU向けの並列コンピューティングプラットフォームおよびプログラミングモデルのNVIDIA CUDA®(Compute Unified Device Architecture)。あるいはスーパーチップ(超高密度集積回路)のGrace Blackwell。そしてそれを搭載し、フアン氏が「クリスマスまでには誰もが手に入れられる」と胸を張る、開発中のAIスーパーコンピュータ、NVIDIA DGXTM Spark…。
こうしたNVIDIAの開発と成長を支えてきたパートナー企業として、TSMC、Foxconn、Wistron、ASUSなどの台湾企業の名もたびたび挙がりました。フアン氏はこれらの企業に謝辞を述べ、台湾のテクノロジーエコシステムへの信頼をのぞかせました。
講演では「AIOps」にも話が及びました。AIOpsとは、「Artificial Intelligence for IT Operations」の略で、AIや機械学習を活用してIT運用業務の自動化・効率化を図ることを指します。フアン氏は、将来、組織のIT部門はAIOpsを導入し、データの収集・整理、モデルのファインチューニング、モデルの評価、モデルへのガードレール設定、そしてモデルへのセキュリティ設定などを行うことになるだろうと述べ、組織で活用されるAIに対するファインチューニングやデプロイなどを実現する、パートナー企業のサービスをいくつか挙げました。その中でAIに対するセキュリティとして、NVIDIA AIを活用するTrend Vision Oneのソリューションアーキテクチャを紹介し、客席にいるトレンドマイクロのCEO エバ・チェンに声を掛ける一幕もありました。

今や企業や都市に至るまで、ロボット化に向けたシミュレーションのため、産業用デジタルツインを実現するためのアプリケーション開発プラットフォーム「NVIDIA OmniverseTM 」を用いて「デジタルツイン」を構築しています。NVIDIA自身のAIファクトリーもデジタルツインを導入し、台湾の高雄市もデジタルツインを構築しました。フアン氏は、台湾は最先端産業の中心地であり、ここからAIやロボティクスが生まれ、それが台湾にとってのチャンスであると言います。
そして最後に、本日発表する最後の「新製品」として、またこれまでで「最大級の製品」として「NVIDIA Constellation」、つまりNVIDIAの新しい台湾オフィスの建設を発表し、基調講演を締めくくりました。

12のトピックは以下の通りです。
1.Poly Functional Robots(多機能ロボット)
2.Energy Efficient Compute(エネルギー効率の高いコンピューティング)
3.Earth Intelligence(アースインテリジェンス)
4.Sensor Fusion(センサーフュージョン)
5.Algorithm Aligned Silicon(アルゴリズム適合シリコン)
6.Pre-emptive Security(予防的セキュリティ)
7.Synthetic Data(合成データ)
8.Domain Language Models(ドメイン言語モデル)
9.GenAI Coding(生成AIコーディング)
10.Disinformation(ディスインフォメーション)
11.Intelligent Simulation(インテリジェントシミュレーション)
12.Digital Ethics(デジタル倫理)
多機能ロボットの登場やエネルギー効率(AIによる消費電力増大への対応)をどう考えていくべきか、というようなトピックに続き、サイバーセキュリティに関するトピックが12個のうち2つを占めていることは注目すべき点であると言えます。本稿では、この2つを簡単に紹介します。
"Detect and Respond"から"Pre-emptive"へのシフト

サイバーセキュリティの1つ目のポイントは「Cybersecurity shifts from "Detect and Respond" to "Pre-emptive"」です。サイバーセキュリティは長年、EPPとEDR/XDRに代表されるように、脅威を事前に防ぐ対策と、万が一脅威が侵入した際にそこにどう対処するのか、という視点で語られ続けていました。講演を聞いた著者としては、Responsive Cybersecurity(レスポンシブなサイバーセキュリティ)は、不十分であるという点を痛感し、そしてより能動的にサイバーセキュリティへ取り組む必要があることを強く示唆された講演であったと感じました。
また、生成AIを悪用したサイバー脅威に対抗するには、防御側もAIを活用して予防的な対策を行うことが重要だと感じました。事実、トレンドマイクロの調査でも、不正サイトなどを作成する際にAIが悪用されていることを確認しています。また、日本でも生成AIでランサムウェアを作成した容疑者が摘発されている状況などを鑑みると、サイバー攻撃側にはAIの悪用が浸透してしまっている状況が伺えます。よりプロアクティブなサイバーセキュリティ対策を行うためには、AIで効率的な検知・防御をする方法の導入を検討することが不可欠とも言えます。
(関連記事)AI時代に必要な”プロアクティブセキュリティ”とは?~Japan IT Week 春 2025に見るサイバーセキュリティのトレンド

また、サイバーセキュリティにおける2つ目の重要なポイントとして、偽情報が新しい分野として注目されているということです。生成AIは偽のコンテンツを作成することが容易であり、重大なビジネスリスクに結びつく恐れがあります。結果的にサイバー攻撃がますます高度化することにもつながるでしょう。トレンドマイクロでも、フェイクニュースへの対策を解説したり、ディープフェイクを検出する技術を提供したりしており、偽情報がサイバーセキュリティ上も重要な局面に来ていると考えています。


COMPUTEXはハードウェアを中心とした展示会と言えます。NVIDIAのGPUやそれが搭載されたサーバはもちろんのこと、ディスプレイ、PCの筐体、マザーボードやメモリ、ヒートシンクなど、ハードウェア機器類が並んでいます。
クラウドやソフトウェア技術が注目されることが多くなった昨今ですが、ITシステムにはこういった物理的なハードウェアが必ず存在します。COMPUTEXでは、“ハードウェアのパワー”を改めて感じることができました。

トレンドマイクロはそういった”ハードウェア中心”の展示会であるCOMPUTEXの中で、ある意味、異色の存在ともいえます。AIがより活用されることになると、ガートナーの講演でもあったように必ずAIを悪用するサイバー攻撃者が現れます。トレンドマイクロでは、大きく3つの展示コーナー「Safeguarding Your AI Investments(AI資産の保護)」、「Simulating Cyber Attacks with Your Digital Twin(デジタルツインを活用したサイバー攻撃シミュレーション)」、「Secure Your AI Factory(AIファクトリーの保護)」をブース展示しました。
Safeguarding Your AI Investments(AI資産の保護)では、AIシステムに対してどのようなサイバー攻撃がどの部分に発生する可能性があるのか、そのそれぞれのポイントに対して、どういった保護を提供するのかをご紹介しました。ミニセッションの中では、AIモデルやRAGが脅威にさらされることによってどのような問題が起こるのか、それらに対してどのようなセキュリティソリューションを適用すべきかなどを解説しました。
トレンドマイクロが2024年12月末に公開したAIシステムのリスクに関する調査では、インターネット上で本来非公開であるべき8,817個のコンテナレジストリがインターネット上で公開されていることを確認しました。このうち1,453個はAIモデルが含まれるものでした。これはコンテナなど従来から使われていたシステム上で、AIモデルが動作しており、適切なセキュリティ設定になっていない状況と言えます。
また、同時期にRAG(検索拡張生成)システムのリスクを調査した際には80台以上のRAGサーバが適切なセキュリティ対策なしで運用されていることがわかりました。RAGは企業独自のデータベースなどが格納されていることもあり、よりリスクが高い状態と言えます。このように既に存在するリスクに対して、法人組織は適切なAIセキュリティを実装していく必要があると言えます。


「Simulating Cyber Attacks with Your Digital Twin(デジタルツインを活用したサイバー攻撃シミュレーション)」では、サイバー攻撃を受けた際の演習を、実際に避難訓練を行うようによりリアルな形で実施することができることを紹介しました。トレンドマイクロでも、「攻撃者の視点」に立って自分たちのシステムをチェックする方法の1つである「レッドチーム演習」を実施しています。レッドチーム演習では、攻撃者の思考や手法に沿って自社システムに攻撃を仕掛け、防御技術や検知・対応プロセスの弱点をチェックしていきます。レッドチーム演習は非常に効果的なものですが、実際に攻撃を行い対応することから、多くの学びに繋がる一方で、環境の構築や対応に多くの時間がかかります。デジタルツインを活用することで、実際の環境を模したシミュレーションができるため、模擬攻撃を行う前の準備などの手間が掛かりにくい一方で、実際の環境に近い状況を作り出せる点にメリットがあると言えます。

<関連記事>
・トレンドマイクロが実践するサイバー攻撃演習(前編) ~サイバー攻撃者視点で徹底的にあぶりだす、組織のペインポイント
・トレンドマイクロが実践するサイバー攻撃演習(後編) ~流行中のランサムウェアを模したリアルな演習、見えてきたXDRの効果とは
「Secure Your AI Factory(AIファクトリーの保護)」では、昨今データ主権などの観点でソブリンクラウドが求められているお客様に対して、サイバーセキュリティを提供するソリューション「Trend Vision One™ for Sovereign & Private Cloud」をご紹介しました。
ソブリンクラウドとは、特定の組織がデータを運用して事業を行う際に、自国の法律に準拠してデータ運用を行えるよう支援するクラウド環境を指します。多くの場合、ソブリンクラウドを利用する組織の本拠地が存在する国にデータセンタを置くことや、運用する業者を自国の企業のみに制限することによってデータ主権を保証します。
近年「オンプレミス回帰」という言葉も注目を集めています。オンプレミス回帰とは、端的に述べるとクラウドを利用していた環境をオンプレミス(自社のデータセンタなどに自前でサーバを構築し、OSをインストールするなど)に戻すことです。クラウド利用のコストなどを減少させたいという理由もありますが、ソブリンクラウドの視点で述べると、自社に関する様々な情報を外部に送信しないことが求められます。トレンドマイクロが提供するAgentic AI サイバーセキュリティプラットフォーム「Trend Vision One」は、SaaS形式で提供しており、お客様に対して行われたサイバー攻撃に関するテレメトリ情報などもトレンドマイクロが運営するクラウド上に送信され、XDRやCREM(サイバーリスクエクスポージャーマネジメント)機能を提供するのため、相関分析などを行います。これに対して「Trend Vision One™ for Sovereign & Private Cloud」は、自社のデータセンタにハードウェアを構築し、そこにトレンドマイクロのサイバーセキュリティプラットフォームを導入するというものです。そのため、データが自社外に送信されることは基本ありません。データ主権など、より厳密なセキュリティが求められる組織に対して今後需要が高まることが予想されます。

最後に、COMPUTEXのトレンドマイクロブースには、日本からも多くのお客様にご来場頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。台湾や日本をはじめとした世界各地に拠点を持ち、アジアからグローバルに展開するサイバーセキュリティ企業のトレンドマイクロの今後にご期待ください。
