ディープフェイクの悪用に関するリサーチ

~不正なディープフェイクツールの利用から、正規ツールの悪用に~

2025年7月17日

トレンドマイクロ株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役社長 兼 CEO:エバ・チェン 東証プライム:4704、以下、トレンドマイクロ)は、ディープフェイクに関するリサーチを実施しました。サイバー犯罪者は、従来不正なディープフェイクツールを利用する傾向がありましたが、昨今正規のディープフェイクツールを悪用する傾向に変化していることがわかりました。

リサーチの詳細はブログをご覧ください。
ディープフェイクを悪用したサイバー攻撃:新たなAI犯罪ツールセットの分析 | トレンドマイクロ セキュリティブログ

主なトピックは以下の通りです。

◆悪用される正規のディープフェイクツール

ディープフェイクは、AIによって作り出された偽の動画や音声もしくは、それを作るための技術を指します。ディープフェイク自体は不正ではないものの、サイバー犯罪者はディープフェイクを悪用することで、金銭や情報を窃取しようと試みます。ディープフェイクの悪用は、法人組織においては、ビジネスメール詐欺、eKYC(オンライン本人確認、電子本人確認)の認証突破、内部犯行を行うための企業への就職活動などに、個人においては、偽広告、ロマンス詐欺、ディープポルノなどの懸念があげられます(表1)。

  広範囲な攻撃 標的型攻撃
企業 ・eKYC(顧客確認)の回避 ・ビジネスメール詐欺(BEC)
・偽社員による雇用詐欺
個人 ・偽広告・ロマンス詐欺
・セクストーション
・児童ポルノ
・バーチャル誘拐
・海外で足止めされた旅行者を装う詐欺

表1:被害者のタイプと攻撃の広がりによるディープフェイク攻撃の分類

トレンドマイクロのリサーチでは、従来不正なディープフェイクツールに関するサービス提供(図1)やアンダーグラウンドフォーラムの投稿(図2)を複数確認していましたが、昨今サイバー犯罪者は正規のディープフェイクツールを悪用する傾向に変化していることがわかりました。表2は、AIによる正規の音声サービス、表3はAIによる正規の動画作成サービスの一例です。これらのツール自体は不正なものではありませんが、サイバー犯罪者が悪用することで、詐欺や認証突破に繋がるリスクがあります。

図1:画像生成サービスを提供すると主張する犯罪用LLM TorGPT(2024年半ば)

図1:画像生成サービスを提供すると主張する犯罪用LLM TorGPT(2024年半ば)

図2:DeepFake 3D Proのアンダーグラウンド広告(2024年半ば)

図2:DeepFake 3D Proのアンダーグラウンド広告(2024年半ば)

サービス名 機能 主な特徴 価格
Eleven Labs 音声クローン、音声変換、テキスト読み上げ 多言語対応、ワンショット生成、
スケーラブルなAPI統合
無料プランあり;有料プランは月額5ドル〜1,320ドル
FakeYou 音声変換、テキスト読み上げ ゼロショット音声クローン、ゼロショット音声変換、コミュニティ生成音声、キャラクター・ミーム特化 無料プランあり;有料プランは月額7ドル〜25ドル
Google Cloud Text-to-Speech テキスト読み上げ 高忠実度音声、50以上の言語・バリエーションに対応する多言語サポート 無料枠で月4百万文字まで使用可能;有料プランは100万文字あたり4〜160ドル
IBM Watson Text-to-Speech テキスト読み上げ リアルタイム音声合成、発音カスタマイズ、感情表現制御、音声属性の細かい調整 無料枠で月1万文字まで使用可能;有料プランは10万文字あたり2ドル〜
Lovo AI(Genny) 音声クローン、テキスト読み上げ プリセット音声、多言語対応、感情トーン制御、動画編集ツールとの統合 有料プランは月額24ドル〜149ドル
Murf.ai 音声変換、音声クローン、音声吹き替え、テキスト読み上げ 多言語対応、200以上のプリセット音声 無料トライアルあり;有料プランは月額19ドル〜199ドル
Play.ht 音声変換、テキスト読み上げ 多言語対応、SSMLによる発音・抑揚制御、モバイル対応 無料トライアルあり;有料プランは月額5ドル(ハッカープラン)〜999ドル(グロースプラン)

Replica Studios

音声変換、テキスト読み上げ 多言語対応、豊富な音声ライブラリ、ピッチやトーンのカスタマイズ 無料プランあり;有料プランは月額10ドル〜
Resemble AI 音声クローン、テキストプロンプトからの音声生成、テキスト読み上げ 多言語対応、感情・トーン制御、リアルタイム出力、ニューラル・ウォーターマーキング、C2PA準拠 無料トライアルあり;有料プランは月額5ドル〜699ドル
Speechify テキスト読み上げ+音声生成、音声吹き替え、音声クローン オーディオブック作成サービス、読書・リスニングに最適化、モバイル対応 テキスト読み上げは月額11.58ドル;オーディオブックサービスは月額9.99ドル

表2:AIによる正規の音声サービスの一例(機能や価格は調査時点の情報です)

サービス名 機能 主な特徴 価格
Argil AI 短いサンプル動画を使ったテキストからの動画生成 ボディランゲージやカメラアングルの完全な制御 無料プランあり;有料プランは月額39ドル〜
Avatarify ビデオ通話中のリアルタイム顔入れ替え オープンソース、Zoomなどのビデオ会議アプリと連携 無料
Deepfake_tf 合成動画生成、動画内の顔入れ替え オープンソース、TensorFlowベース、カスタマイズ可能な学習モデル 無料
DeepFaceLab 合成動画生成、動画内の顔入れ替え オープンソース、TensorFlowベース、GPUアクセラレーション対応 無料
Deepfakes Web 動画内の顔入れ替え クラウドベース、デジタル透かし付き、「あえて不完全」ポリシーを採用 動画1本あたり10ドル
DeepSwap 画像および動画内の顔入れ替え 高品質な出力、複数人の顔の同時入れ替え、顔が遮られていても対応 有料プランは月額19.99ドル〜
FaceMagic 動画内の顔入れ替え 使いやすいモバイルアプリ、クラウドベース、有料プランで透かし除去可能 無料プランあり;有料プランは月額9.99ドル〜
HeyGen AIアバター生成 台本なしの会話生成に特化 無料プランあり;有料プランは月額29ドル〜
Reface GIFや短い動画での顔入れ替え 使いやすいモバイルアプリ、ソーシャルメディアとの連携 アプリ内課金ありの無料プラン
Synthesia AIアバター生成 多言語対応、ビデオ会議アプリでも使用可能 無料プランあり;有料プランは月額23ドル〜

表3:AIによる正規の動画作成サービスの一例(機能や価格は調査時点の情報です)

◆ディープポルノ(性的ディープフェイク)は喫緊の課題に

ディープポルノは喫緊の課題です。鳥取県では、生成AIにより児童ポルノが作成される被害が発生していることを鑑みて、2025年4月1日に鳥取県青少年健全育成条例を改正し、施行する旨を発表※1しています。
※1  「鳥取県青少年健全育成条例の改正について」

音声や動画を作成するサービスに加え、ディープポルノを作成するサービスが存在しています。上述の鳥取県では、行政罰を新たに盛り込む方針についても報道されています。AIの悪用やディープポルノの規制は引き続き検討していく必要がある状況です。

図3:Instagram から画像をインポートするオプションを提供するディープポルノ作成ツール

図3:Instagramから画像をインポートするオプションを提供するディープポルノ作成ツール
(画像を一部加工しています)

サービス名 機能 主な特徴 価格
ディープポルノツール:A 写真のヌーディファイ加工(衣服の除去) 直感的なインターフェース、ドラッグ&ドロップでのアップロード 無料
ディープポルノツール:B アダルトシーンにおける顔の合成 顔の合成用プリセット画像および動画 無料トライアルあり;有料プランは月額22ドル〜
ディープポルノツール:C テキストからの画像・動画生成、写真のヌーディファイ、NSFW画像・動画での顔合成 高品質な画像、プライベートストレージ対応 有料プランは月額2.99ドル〜14.99ドル
ディープポルノツール:D 実在する写真からのNSFW画像生成 NSFWモード用のプリセット 無料プランあり;課金は19.99ドル〜/バンドル
ディープポルノツール:E 写真のヌーディファイ加工 Instagramからの写真インポート、年齢・人種のプリセット 無料プランあり;有料プランは月額10.90ドル〜

NSFW=Not Safe For Work(職場や学校などで適さない画像)
表4:ディープポルノツールの一例(機能や価格は調査時点の情報です)

◆正規のディープフェイクツールの悪用を促すアンダーグラウンドフォーラム

従来、アンダーグラウンドフォーラムでは、犯罪用LLMサービスの提供を確認していましたが、昨今は正規のディープフェイクツールを悪用する傾向に変化しています。2024年半ばに確認していた不正なLLMは昨今では影を潜め、正規ツールの悪用についてのやり取りが頻繁に行われています。例えば、正規のディープフェイクツールを悪用し、犯罪を行う方法を他の犯罪者に教えるディープフェイク作成チュートリアルやプレイブックの存在です。

2024年11月にはアンダーグラウンドフォーラムでサイバー犯罪者が正規のディープフェイクツールであるDeep-Live-Camを悪用するためのプレイブックを公開したことを、2024年12月には、暗号通貨取引所、出会い系サイト、金融アプリケーション、オンラインカジノにおけるeKYC(オンライン本人確認、電子本人確認)の認証を突破するためのチュートリアルとプレイブックを公開していることを確認しています。

図4:アンダーグラウンドフォーラムにおけるディープフェイク作成の投稿

図4:アンダーグラウンドフォーラムにおけるディープフェイク作成の投稿

図5:eKYCにおける本人確認突破のプロセス

図5:eKYCにおける本人確認突破のプロセス

図6:なりすましサービスの販売投稿(上)とマニュアルの販売投稿(下)

図6:なりすましサービスの販売投稿(上)とマニュアルの販売投稿(下)

トレンドマイクロでは、エンタープライズサイバーセキュリティプラットフォーム「Trend Vision One」や個人向け製品においてディープフェイクを検出する機能を提供しています。法人組織や個人ユーザにおいては、ディープフェイクを検出する機能の利用を検討するとともに、音声や動画の違和感(不自然な動きなど)、話している内容の信ぴょう性、情報元の確認などを行うことを推奨します。また、AIの悪用やディープポルノの規制は引き続き検討していく必要がある状況です。トレンドマイクロは、一般社団法人Generative AI JapanをはじめとしたAI関連団体に加入し、安心安全なAI利用を推進してまいります。

※2025年7月17日現在の情報をもとに作成したものです。今後、内容の全部もしくは一部に変更が生じる可能性があります。
※TREND MICROはトレンドマイクロ株式会社の登録商標です。各社の社名、製品名およびサービス名は、各社の商標または登録商標です。