ICS OT
英国の発電施設、サイバー攻撃で操業停止:産業インフラの運用者と防御担当者が知っておくべきこと
2026年7月、英国の発電施設がサイバー攻撃を受けたと報じられました。単一施設の停止であっても、産業インフラ全体のレジリエンスをめぐる幅広い問題が浮き彫りになります。
- 2026年7月、英国の発電施設がサイバー攻撃を受け、4日間にわたって停止したと報じられました。ただし、より広域の電力供給に影響はありませんでした。
- 技術的な詳細の多くは現時点で不明ですが、今回の事案は、電力網全体に影響を及ぼさなくてもサイバー攻撃が操業停止を引き起こし得ることを示しています。
- この停止は、米国の水道インフラに対するサイバー攻撃が確認された時期と重なっており、産業インフラのセキュリティを脅かす攻撃への懸念が続いていることを浮き彫りにしています。
- 一連の動きからは、悪意ある活動の標的として運用技術(OT)への注目が高まっていることが分かります。
国家との関連が疑われる敵対者による産業インフラへの攻撃は増加傾向にあり、攻撃者は、社会に不可欠なサービスを支える物理的な運用の妨害に重点を移しつつあります。英国の国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)は、2026年6月のニュースリリース(英語)で、前年に重要国家インフラとその関連エコシステムへ影響を及ぼした200件以上のサイバーインシデントに対応し、その4分の3が敵対国と関連していたと報告しました。そして今回、新たな事案が報じられました。
英国紙The Telegraphによると、イランとの関連が疑われるサイバー攻撃(英語)により、英国の発電施設が4日間にわたって停止しました。同紙は、「イラン政権と関係するハッカーが英国でこの種の施設を停止させることに成功した初の事例とみられる」と報じています。被害を受けた施設は公表されておらず、技術的な詳細も限られています。今後、信頼できる情報が明らかになるにつれて、状況の評価が変わる可能性もあります。
本記事では、今回の事案について判明していることと不明なことを整理し、これまでに確認された産業インフラへの攻撃動向を踏まえて分析するとともに、防御担当者が実践できる対策を紹介します。
強まる産業インフラへの圧力
この攻撃はNCSCに正式に報告されましたが、英国政府は、より広域のエネルギーシステムが危険にさらされることはなかった(英語)と説明しています。被害を受けた発電所は比較的小規模だったと報じられています。それでも英国エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)は事案発生後、エネルギー企業や事業者にサイバーリスクについて説明しました。
英国での事案は、米国の水道インフラに対する一連のサイバー攻撃が確認された時期と重なったと報じられています。米国で最近発生した攻撃は、英国の事案を考えるうえでも参考になります。特に、産業インフラで使用される運用技術(OT)システム、たとえば産業制御システム(ICS)や監視制御・データ収集(SCADA)システムを狙う攻撃への懸念が広がっています。2026年7月には、米国の6つの連邦機関が共同アドバイザリを更新しました。AA26-097A(英語)では、政府施設、水道システム、エネルギーインフラの物理的な運用を担う、インターネットからアクセス可能なプログラマブルロジックコントローラ(PLC)が攻撃者により継続的に悪用されていると警告しています。これらの動向については、TrendAI™ Researchの「米国の産業インフラを狙う継続中のPLC悪用攻撃について連邦機関が警告」および「米国の水道事業者を狙う悪意のあるサイバー活動:運用者が知っておくべきこと」もご覧ください。
米国での攻撃活動と英国での事案を、同じキャンペーンの一部とみなすべきではありません。両者の関連性を裏付ける信頼できる情報源は、現時点で確認されていないためです。ただし、産業インフラを支えるOT環境を国家との関連が疑われる敵対者が狙っているとの報道や警告は増えており、この種の攻撃は増加傾向にあると考えられます。
4日間の停止から分かること、分からないこと
以下は、今回の英国での事案について確認された詳細ではなく、TrendAI™ Researchがこれまでに記録した攻撃パターンに基づく技術的な評価です。実際に起きたことの説明ではなく、防御担当者に分析の手がかりを提供する目的で紹介します。
本記事の公開時点では、今回の英国での攻撃に関する技術的な詳細は公表されていません。したがって、現時点の報道だけで攻撃経路を再現することはできません。また、4日間の停止が、広範な被害や攻撃者による継続的な制御を必ずしも意味するわけではありません。運用者が状況を調査し、影響を受けたシステムを点検して、安全に再稼働できることを確認するまで施設を停止させていた可能性もあります。発電所は比較的小規模で、より広域のエネルギーシステムに危険が及ばなかったと報じられているため、慎重な復旧を優先できる余地も大きかったと考えられます。
類似する事案を踏まえると、攻撃者がインターネットに公開されたサービス、脆弱な認証情報、または脆弱性のあるファイアウォールやVPNゲートウェイから初期アクセスを得た可能性が考えられます。たとえば、CERT Polskaのレポート(英語)は、熱電併給施設へのサイバー攻撃を取り上げ、最終的に設定不備のあったプライベートAPNが侵入経路だったと報告しています。同様に、TrendAI™ ResearchのThe Gaspot Experiment: How Gas-Tank-Monitoring Systems Could Make Perfect Targets for Attackers(英語)は、インターネットに公開された産業用監視システムが抱えるリスクを実証しました。
今回の英国での事案に同じ手法が使われたことを示す証拠はありません。それでも、これらの事例は、組織が外部からアクセス可能なシステムについて、その必要性とセキュリティ対策の妥当性を継続的に評価すべき理由を明確に示しています。
防御担当者が注目すべき理由と、組織が今すぐできること
報じられた停止の原因が、OTへの直接的な干渉、関連システムの侵害、または運用者による予防的な停止のいずれであっても、結果は同じです。サイバーインシデントによって、実際の操業に支障が生じました。重要なプロセスを管理する組織にとって、それだけでも重大な事態です。
今回の事案をめぐる重要な事実はまだ明らかになっていませんが、組織のセキュリティチームと運用チームは、攻撃にさらされるリスクを減らすため、次の対策を実施できます。
- インターネットに公開されているOT資産と産業用資産を特定する: PLC、産業用コントローラ、リモートアクセスゲートウェイ、エンジニアリングワークステーションなど、外部から到達できる可能性がある運用資産を可視化します。
- リモートアクセス経路を見直す: 従業員、請負業者、ベンダ、その他の第三者が運用環境へ接続する方法を確認し、不要になったアクセス権を削除します。
- 認証を強化する: デフォルトの認証情報を変更し、可能な限り共有アカウントを廃止するとともに、産業活動を支えるシステムに、より強力な認証制御を導入します。
- ITとOTのセグメンテーションを評価する: 社内IT環境と運用システムがネットワークアーキテクチャ上で適切に分離され、両者の間に不要な経路が設けられていないか確認します。
- エンジニアリング操作を監視する: コントローラのプログラミング、設定変更、ロジックの修正など、物理プロセスに影響し得る操作を可視化します。
- ログ取得と検知の能力を検証する: セキュリティチームが、企業IT環境と運用環境の双方から関連イベントを収集し、分析できることを確認します。
- 原因不明の操業障害を調査する: 予期しない停止は、セキュリティイベントの可能性を考慮して扱います。当初は保守作業、人為的ミス、日常的な運用上の問題が原因と思われる場合でも、適切に報告して検証できる体制を整えます。
- 操業の復旧に備える: 検証済みのバックアップと文書化された復旧手順を維持し、必要に応じて手動運転の手順も検証しておきます。
目標は、初期侵入を阻止することだけではありません。ITシステム、ID、リモートアクセス基盤から、物理的な運用を支える環境へ攻撃者が侵入を広げるのを防ぐ必要があります。
まとめ
英国の発電施設をめぐる事案は現在も進展中であり、攻撃経路、影響を受けたシステム、攻撃主体の帰属など、重要な点はまだ明らかになっていません。新たな情報が得られれば、本記事の評価内容も変わる可能性があります。
ただし、電力網全体に影響を及ぼさなくても、サイバー攻撃が操業に重大な結果をもたらし得ることは、すでに明らかです。比較的小規模な施設の停止であっても、サイバーリスクが現実の被害につながり得ることを示しています。
Why East-West Visibility Matters for Grid Security(英語)でも示しているように、セキュリティチームにとって引き続き優先すべきなのは、攻撃にさらされている領域を把握して縮小し、環境を可視化するとともに、運用システムへ到達する前に潜在的な攻撃経路を特定することです。国家との関連が疑われる攻撃者が産業インフラの弱点を探り続ける状況では、運用に影響が及ぶ前に脅威を発見し、阻止できるかどうかが、レジリエンスを大きく左右します。
運用環境の保護に伴うセキュリティ上の課題をさらに詳しく知りたい方は、2026年の産業インフラセキュリティレポート「脅威にさらされる産業インフラ:フロンティアAIはリスクの方程式をどう変えるのか」をご覧ください。本レポートでは、新たな攻撃動向、国家との関連が疑われる活動、重要分野のレジリエンスを高めるための実践的な戦略を解説しています。
関連資料
産業インフラを担う組織を取り巻く脅威は拡大しています。攻撃者が物理的な運用を支えるシステムを狙う傾向を強めているためです。産業・エネルギー分野の企業がレジリエンスを高め、サイバーリスクを減らすうえで役立つTrendAI™の資料を以下に紹介します。
参考記事
UK Power Facility Cyberattack Shutdown: What Critical-Infrastructure Operators and Defenders Need to Know
By : TrendAI™ Research
翻訳:与那城 務(Platform Marketing, Trend Micro™ Research)