Cyber Risk
見えないアタックサーフェス:データセンター周辺で露出する数千台の産業制御システム
TrendAI™ Researchが米国のデータセンター周辺にあるICSプロトコルを調査したところ、冷却、電力、環境設備といった重要インフラを制御する数千台の脆弱なデバイスが見つかりました。運用効率を重視し、セキュリティを前提とせずに設計されたこれらのシステムは、公開インターネットからアクセス可能な状態にありました。
- TrendAI™ Researchは、米国の1,063か所のデータセンターから1km(0.62マイル)以内に、BACnetコントローラ、Niagaraプラットフォーム、Vertiv/Liebert製データセンター機器など、インターネットからアクセス可能な産業制御システム(ICS)およびビルディングオートメーションシステム(BAS)のデバイスを6,300台、信頼度の高いものとして確認しました。
- これらの公開デバイスは、Purdueモデルの非武装地帯(DMZ)を完全に迂回し、インターネットからオペレーショナルテクノロジー(OT)へ直接到達できる経路を形成しています。その先には、冷却、電力、環境監視を担う物理システムがあります。
- AI時代に建設されたデータセンター(2021年以降)の露出率は13.1%で、2010年より前に建設された施設の4.9%の2倍を超えています。導入の速さと露出拡大に相関がある可能性を示す結果です。
- 公開デバイス上で稼働する特定のソフトウェアには、共通脆弱性識別子(CVE)として登録され、共通脆弱性評価システム(CVSS)で最大10.0と評価された既知の脆弱性があります。また、FrostyGoopなどICSを標的とするマルウェアはModbusプロトコルを直接狙っており、今回確認した公開デバイスのうち159台がModbusを使用していました。
データセンターのセキュリティと聞くと、通常はファイアウォール、侵入検知システム、分散型サービス拒否(DDoS)攻撃への対策、ゼロトラストアーキテクチャを思い浮かべます。高度なサイバー防御を幾重にも施した環境で、サーバラックが稼働している姿を想像するでしょう。しかし、こうした施設には、セキュリティの議論でほとんど取り上げられないもう一つの側面があります。すべての稼働を支える物理インフラです。
データセンターは、本質的にはコンピューティング機器を収容する空調管理された倉庫です。精密な温度制御、湿度管理、配電、バックアップシステムが欠かせません。冷却能力の余裕が失われると、温度アラームや自動保護停止へと急速に連鎖します。電力変動はデータ破損を引き起こす可能性があります。これらの機能を管理するのが、産業制御システム(ICS)、ビルディングオートメーションシステム(BAS)、監視制御・データ収集(SCADA)システムです。発電所、浄水施設、製造現場を動かすものと同じ技術です。セキュリティではなく運用効率を重視して設計されたこれらのシステムが、インターネットからアクセス可能になれば、何が起きるでしょうか。人工知能(AI)インフラの需要増大、建設をめぐる対立、地政学的緊張により、データセンターに対するハクティビズムや標的型攻撃のリスクは高まっています。
米国の1,000か所を超えるデータセンターのGPS座標から1km(0.62マイル)以内を対象にICSプロトコルを調査した結果、公開インターネット上にある実際のビルディングオートメーションコントローラ、HVACシステム、電力管理インターフェースを6,300台確認しました。この調査で悪用行為は行っておらず、Shodanによる受動的なスキャンを超える能動的な探索も実施していません。安全上および倫理上の理由から、デバイスのポートを直接調査することもありませんでした。新しい施設ほど露出率は高く、2021年以降に許可を取得したデータセンターでは、2010年より前の施設と比べ、周辺にICSの露出が見られる割合が2倍を超えました。検出結果の81%をBACnetとFox/Niagaraプロトコルが占め、複数の建物設備を橋渡しする143台のマルチプロトコルゲートウェイは、価値の高い標的となります。「セキュリティ上の影響」では、こうした露出が運用妨害、ICSランサムウェア、ラテラルムーブメントなど、具体的な攻撃シナリオにどう結びつくかを説明します。
インフラ建設のゴールドラッシュ
AIブームを背景に、米国ではデータセンター建設が急増しています。米国国勢調査局によると、民間企業が2025年だけでAIインフラへ投じた金額は推定3,000億米ドル、建設支出は月額約35億米ドルに達しました。Amazon、Microsoft、Google、Metaなどのハイパースケーラーは、AI戦略に必要なコンピューティング能力の確保を競っています。
この拡大の規模と速度は、地域社会の姿も変えています。「Data Center Alley」と呼ばれるバージニア州アッシュバーンでは、わずか15平方マイルの地域に152か所のデータセンターが稼働し、さらに建設が進んでいます。インターネットのIPトラフィックの推定70%が、この郊外地域で生成されるか、ここを経由しています。インディアナ州の農村部では、Amazonが1,200エーカーの農地を、110億米ドル規模の施設へ「ほぼ一夜にして」変えました。ルイジアナ州にあるMetaの100億米ドル規模のHyperion施設は、2,000エーカーを超える敷地に広がっています。
一方、このインフラ建設のゴールドラッシュには反発も起きています。バージニア州北部では、巨大な建設現場のすぐ隣で暮らす住民もいます。かつてデータセンター投資を誘致していた地方政治家が、今では拡大を抑える運動を展開しています。住民が訴えるのは、生活の質、騒音、交通、電力網への負荷に伴う電気料金の上昇です。需要の大きい市場では、電気料金が8%から25%上昇すると予測されています。イリノイ州からノースカロライナ州までをカバーする地域系統運用機関PJM Interconnectionの電力市場では、2025~2026年の容量市場だけで、データセンターが93億米ドルの価格上昇をもたらしました。
速度を優先すればセキュリティが犠牲になりやすいため、この状況は本リサーチにも関係します。AIのコンピューティング需要に応えるため、かつてない速さで施設が建設されるなか、冷却、電力、環境制御を管理するビルディングオートメーションシステムは、それが支えるサーバと同等のセキュリティ審査を受けていない可能性があります。設備を早期に稼働させる圧力が、設定不備、デフォルト認証情報、OTのインターネットへの直接公開を招きます。ブームが加速するほど、見えないアタックサーフェスも拡大します。
リサーチ上の問い
本リサーチで答えようとした問いは単純です。米国の主要データセンターの近くに、インターネットからアクセス可能なICS、BAS、SCADAデバイスは何台あるのか。
インターネット接続機器を検索できる公開サービスShodanを使用し、米国の1,000か所を超えるデータセンターの地理座標周辺で、ICSプロトコルを体系的に調査しました。本リサーチではShodanを使用しましたが、Censysなどのプラットフォームでも同様の分析は可能です。自組織のIPアドレス空間をICS向けNmapスクリプトでスキャンし、その結果をGeoIPサービスと照合する方法もあります。手法は明快です。各データセンターのGPS座標から半径1km(0.62マイル)以内で産業用プロトコルを稼働させているデバイスをShodanで検索し、厳密なフィルタリングによって実際のOTをハニーポット、設定不備、誤検出などのノイズから分離しました。
IPアドレスの位置情報にはShodanのGeoIPメタデータを使用しました。これはデバイスの正確な所在地ではなく、インターネットサービスプロバイダ(ISP)の登録情報に基づき、IPアドレス範囲をおおよその緯度・経度に対応づけるものです。地域単位のクラスタリングには信頼できる一方、多数のデバイスが同一座標に割り当てられることがあります。そのため、結果は正確な物理位置ではなく、都市圏内での近接性を示すものとして解釈する必要があります。
データセンター所在地の収集
まず、正確なGPS座標を持つ、検証済みの米国内データセンター所在地一覧が必要でした。その出典として、米国各地の1,240か所を超えるデータセンターを地図化したBusiness Insiderの調査を使用しました。AI主導のデータセンターブームに関する報道のために作成されたデータセットで、施設の住所、運営者名、公開記録、環境許可、電力会社への申請から得た地理座標が含まれています。
記事のインタラクティブマップから、所在地、所有者、運用メタデータの各フィールドを含む構造化データを抽出しました。クレンジングと重複排除を経て、Shodanの近接検索に使える検証済みの緯度・経度を備えた、1,000か所を超える固有の所在地が残りました。
この方法には重要な前提があります。本リサーチの対象は、環境影響報告書や電力計画文書に掲載されるような、大規模で公に記録された施設に偏っています。規制当局の把握が及ばない小規模な民間データセンターは含まれません。したがって、本調査結果は、米国のデータセンターインフラ周辺におけるICS露出の真の規模について、少なくともこれだけは存在するという下限値を示しています。
数字が示す実態
Shodanのスキャンデータから、次の結果が得られました。
- ICS固有のプロトコルスキャンから得たShodanの生レコード73,847件
- 初期フィルタリングと重複排除後の固有デバイス・ポート組み合わせ14,510件
- ICSプロトコルに応答した固有IPアドレス8,458件
- 信頼度スコアを適用した後の信頼度の高いICSデバイス6,300台(フィルタリング後の結果の43.4%)。固有IPアドレスは3,991件
- リサーチ対象一覧に含まれるデータセンター1,063か所
信頼度の高い6,300台は机上の存在ではありません。誰かがどこかで公開インターネットに接続した、実在するビルディングオートメーションコントローラ、HVACシステム、電力管理インターフェース、プログラマブルロジックコントローラです。多くのデバイスは、ベンダー名、ファームウェアバージョン、ゾーン設定、機器一覧など、詳細なバナー情報を返します。これらのデバイスを総合すると、攻撃者にとって実用的な情報の宝庫となります。
基礎解説:これらはどのようなシステムか
以降の内容を理解するために、まずデバイスの役割と重要性を説明します。データセンターには詳しくても産業制御にはなじみがない方に向けた基礎知識です。図1は、一般的なデータセンター環境にこれらのシステムがどう組み込まれているかを示しています。電力インフラ、冷却システム、サーバホール、それらを結びつけるビルディングオートメーションコントローラの関係を確認できます。
ビルディングオートメーションシステム(BAS)
ビルディングオートメーションシステムは、暖房、換気、空調(HVAC)、照明、入退室管理、火災警報監視など、建物内の「快適性」に関わるシステムを制御します。データセンターでは極めて重要です。サーバは大量の熱を発生させるため、冷却が止まれば数分で過熱するおそれがあります。BASでは通常、BACnetプロトコル(ポート47808)が使われます。これは1980年代後半に開発され、1995年にASHRAE 135として標準化されたものですが、目的はセキュリティではなく相互運用性でした。BACnetデバイスに問い合わせると、ベンダーID、「AHU-ROOF-02」や「Chiller Plant B」といったデバイス名、ファームウェアバージョン、システム内のすべてのセンサーとアクチュエータを記述したオブジェクト一覧など、大量の情報が返されることがあります。
産業制御システム(ICS)
ICSは、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)、遠隔端末装置(RTU)、ヒューマンマシンインターフェース(HMI)などを含む、より広い概念です。データセンターでは、配電、発電機の切り替え、無停電電源装置(UPS)の管理などを担います。代表的なプロトコルには、Modbus(ポート502)、EtherNet/IP(TCP/UDPポート44818)、Siemens S7(TCPポート102。ICCPなどの別プロトコルとも共有されるISO-TSAPとしても知られる)があります。これらは1970年代後半以降に生まれたもので、信頼できるネットワーク環境を前提としており、認証や暗号化は後付けか、当初は考慮されていませんでした。
監視制御・データ収集システム(SCADA)
SCADAシステムは、分散インフラを上位から監視・制御します。公益事業では電力網や水道システムを管理し、データセンターでは施設群全体の配電や冷却プラントの運用を監督します。DNP3プロトコル(TCPポート20000)は北米のSCADAインフラを示す典型的な手がかりです。欧州のSCADAではIEC 60870-5-104がより一般的です。ただし、同じポートを使用するTransport Layer Security(TLS)サーバや仮想プライベートネットワーク(VPN)エンドポイントがあるため、DNP3の誤検出率は高くなります。
Niagara/Foxプロトコル
本リサーチで特に多く見つかったのが、Tridium Niagara Frameworkを示すFoxプロトコル(ポート1911)を稼働させているデバイスです。現在Honeywell傘下にあるNiagaraは、異なるビル設備を一つの管理インターフェースへ統合するJavaベースのミドルウェアプラットフォームです。複数ベンダーの機器を単一のダッシュボードで扱えるため、商業施設やデータセンターで広く利用されています。
問題は、多くのNiagara環境がサイバーセキュリティを懸念する以前に導入され、デフォルト認証情報が残っていたり、暗号化されていなかったりすることです。近年のセキュリティリサーチも、この懸念を裏付けています。2024年、Nozomi Networksの研究者は、設定不備のあるシステムでセキュリティ制御を迂回できる可能性のある引数インジェクションや暗号上の弱点を含め、Tridium Niagara Frameworkに13件の新たな脆弱性を発見しました。FBIも、ポート1911のFoxプロトコルが認証なしにシステム情報を開示すると警告しています。インターネットに公開されたNiagaraデバイスは、建物全体のオートメーションインフラへの入り口に等しい存在です。
ノイズから実態を分離する:フィルタリングの詳細
Shodanのデータを扱った経験があれば、生の検索結果がどれほど扱いにくいか分かるでしょう。初期の73,847件には、攻撃者を誘引するハニーポット、設定不備のWebサーバ、セキュリティ研究者のテストシステム、クラウド上のスキャン基盤、正規の産業用デバイスが混在していました。課題は、実際のOTをそれ以外から分離する手法の構築でした。Shodanデータのフィルタリング手法の詳細は付録Bに記載しています。
調査結果:プロトコルとベンダーの分析
表1のプロトコル分布から、公開されているシステムの種類と制御対象が分かります。7種類のプロトコル検索カテゴリーから、信頼度の高い6,300台のうち5,951台を特定しました。残る349台は、Delta、Trane、Distech、Vertiv/Liebertなどのベンダー固有検索で特定しており、表2にまとめています。
BACnet(58%)とFox/Niagara(23%)が大半を占めることから、データセンター周辺で主な露出経路となっているのは、重工業のプロセス制御ではなくビルディングオートメーションであると確認できます。これらのプロトコルは、データセンターの継続稼働に欠かせない冷却、電源品質調整、環境制御を管理します。
ベンダーの構成
バナー分析から、公開デバイスのメーカーが明らかになりました。
Niagara/Tridiumが28%を占めるのは興味深いものの、意外ではありません。NiagaraはIoT(モノのインターネット)という言葉が生まれ、セキュリティが本格的に考慮されるより前に、建物統合用の「IoTプラットフォーム」として設計されました。多くは2005~2015年に導入され、デフォルト認証情報や弱い認証方式が残っている可能性があります。
VertivとLiebertのデバイスが存在することは、データセンターにとって特に重要です。両ベンダーは、精密冷却装置(CRAC/CRAH)、UPS、配電装置など、サーバを稼働させ続けるミッションクリティカルなインフラを専門としています。これらがインターネットからアクセス可能であることは、隣接する商業施設だけでなく、データセンターの中核システムも運営者の認識以上に公開されている可能性を示します。
バナーが明かす情報:匿名化した例
実際の露出がどのようなものかを示すため、データセットから匿名化した例を紹介します。IPアドレスと識別情報は伏せていますが、デバイスの種類と組織上の背景は維持しています。
例1:Liebertの電力管理。 ある大都市圏で、業務用ISPに登録され、記録上のデータセンターから0.45km(0.28マイル)の位置にあるLiebert製電力管理装置2台(ポート47808)を確認しました。Liebertは、データセンター環境向けに設計されたUPSと配電機器を専門としています。Shodanはこれらを検証済みICSとして分類し、デバイスは詳細なバナー情報を返していました。
例2:マルチプロトコルでの露出。 主要なデータセンター回廊にある一つのIPアドレスが、Modbus(ポート502)とBACnet(ポート47808)の両方に応答しました。同一のコントローラ上で、産業用プロトコル(おそらく電力計測用)とビルディングオートメーション(HVAC制御)を扱う統合型ビル管理システムとみられます。これはゲートウェイデバイスであり、侵害されると複数のビル設備へアクセスされます。
例3:教育機関との重なり。 ある大規模大学のネットワークで、商用データセンターから0.5km(0.31マイル)以内にModbusデバイスが見つかりました。大学は高度な研究用コンピューティングインフラを持ち、商用施設に隣接していることがよくあります。大学のビルディングオートメーションは商用データセンターの一部ではありませんが、共有設備に影響を与えたり、攻撃者が別のシステムへ移る足がかりになったりする可能性があります。
例4:Trane Tracerのクラスター。 同じ地域内の、互いに無関係な複数の組織で、商用HVAC制御プラットフォーム「Trane Tracer SC」を複数確認しました。各デバイスは別々のISPに登録されていましたが、いずれも同じデータセンターの近くにありました。このパターンは、HVACインフラの共有か、複数の顧客に似た設定を展開した共通のシステムインテグレーターの存在を示唆します。
これらの例に共通するのは、デバイスが実在し、遠隔アクセスを目的として意図的に公開され、開示される情報が攻撃者にとって運用上有用であるという点です。
地理的パターン:露出が集中する場所
公開デバイスの地理的分布は、米国の主要なデータセンター市場とよく一致しています。
カリフォルニア州だけで信頼度の高いデバイスが2,468台(全体の39%)あり、シリコンバレーへのデータセンター集中を反映しています。ニューヨーク都市圏(ニューヨーク市とニューアーク)では1,285台です。無作為な分布ではなく、既知のデータセンター密度と強い相関があります。
地理的な超集中: 小数点以下2桁の精度(約1km、0.62マイル)では、6,300台のデバイスはわずか82か所の固有の座標に集中しています。最大の単一クラスターでは、925台が同一座標に割り当てられています。ISPがIPアドレスブロックを中心拠点に登録する仕組みを反映したもので、数十組織のビルディングオートメーションが、同じ地域内の共有ネットワーク基盤を経由している可能性があります。
視覚的証拠:クラスタリングの影響
図4と図5は、データセンター周辺に公開デバイスが集中する様子を示しています。ただし、位置情報には注意が必要です。ISPはデバイス単位ではなく地域単位で位置情報を割り当てるため、多くのIPアドレスが同一座標に対応します。300台を超えるデバイスが同じ座標に表示される場合、それはIPアドレスブロックについてISPが登録した位置です。通常は、データセンターが集まる商業地区や工業地区に相当します。
IP位置情報の仕組み:423件のIPアドレスが同一座標になる理由
データを見ると、423件もの異なるIPアドレスがニューヨーク市内のまったく同じGPS座標を返すのはなぜか、という疑問が生じます。その答えは、IP位置情報の仕組みにあります。MaxMindやIP2Locationなどのデータベースは、個々のデバイスの物理位置を把握しているわけではありません。代わりにISPの登録データを参照します。Verizon BusinessやComcastなどのISPがIPアドレスブロックを取得すると、通常は地域オフィス、ネットワークオペレーションセンター、またはサービス提供地域を代表する市中心部の座標を、そのブロックの位置として登録します。
その結果、デバイスの実際の設置場所に関係なく、同じブロックのIPアドレスを使うすべてのデバイスが同じ登録座標を継承します。マンハッタンのオフィスビルにあるBACnetコントローラと、ブロンクスの倉庫にあるNiagaraゲートウェイが同じVerizon BusinessのIPアドレスブロックを使用していれば、どちらも市庁舎と同じ座標として表示される可能性があります。
分析結果もこのパターンを裏付けています。上位15の座標クラスターで5,788台、データセットの92%を占め、そのすべてが公的な市中心部の座標から0.001~0.01度以内に位置します。各クラスターのASN分布から、主要ISPとデバイス数が分かります。
- AT&T(AS7018): 市中心部の座標に1,129台
- Comcast(AS7922): 市中心部の座標に1,047台
- Verizon Business(AS6167、AS701): 市中心部の座標に1,669台
- Cox Communications(AS22773): 市中心部の座標に576台
したがって、IP位置情報だけで特定の建物やデータセンターにデバイスを結びつけることはできません。「サンノゼのデータセンター周辺に590台」と記載する場合、それはサンノゼ都市圏を担当するISPのネットワーク上に590台あるという意味です。データセンター内、隣接するオフィスビル、またはISPの地域サービス範囲内のどこにある可能性もあります。既知のデータセンター座標から1km(0.62マイル)以内を検索する手法で捉えたのは、必ずしも施設内のデバイスではなく、ISPの登録位置がデータセンターのクラスター内にあるデバイスです。
この制約を考慮しても、中心的な調査結果は揺らぎません。公開されたICSデバイスは実在し、プロトコル固有のフィンガープリントで検証され、データセンターが稼働する同じ地理的市場に存在します。データセンターの冷却を制御しているか、隣接する建物のHVACを制御しているかにかかわらず、これらはアタックサーフェスです。データセンターインフラを狙う攻撃者が遭遇し、ラテラルムーブメントや環境設備の妨害に悪用する可能性があります。
データ間のつながり:横断的に見えるパターン
集計値だけでなく、所在地、運営者、プロトコルを横断して見ると、興味深いパターンが現れます。公開デバイスがもたらすセキュリティ上の影響を理解するため、ISA/IEC 62443とNIST 800-82でも参照される産業制御システムセキュリティの基本フレームワーク、Purdueモデルを用います。これは、HVACコンプレッサや配電などの物理プロセスを扱うレベル0から、BASコントローラやHMIなどの現場運用を扱うレベル3まで、セキュリティゾーンを階層化するモデルです。OTと企業ITネットワークおよびインターネットの間には、重要な非武装地帯(DMZ)を配置します。
本リサーチで確認した状況は、このセキュリティアーキテクチャから逸脱しています。特定した6,300台の公開デバイスはDMZ層を事実上完全に迂回し、インターネットからレベル1~3のシステムへ直接到達する経路を作っています。冷却システムを管理するBACnetコントローラや、ビルディングオートメーションを統合するNiagara FrameworkがShodanから直接アクセスできれば、Purdueモデルが意図する慎重に設計されたセキュリティ境界は崩れ、データセンターの重要インフラが攻撃者にさらされます。
図6は、ビルディングオートメーションシステムをICSセキュリティのPurdueモデルに当てはめたものです。ITインフラには多層防御と専用の監視がある一方、ビルディングオートメーションは最小限の保護しかない別系統のネットワークで運用されていることがよくあります。
どの地域にも現れる同じベンダー
Niagara/Tridiumのデバイスは、分析対象としたすべての主要都市圏で確認されました。プラットフォームが広く採用されているか、単一のシステムインテグレーターや管理会社が、全米の複数の公開環境を担当している可能性があります。ある組織のNiagara導入手順に問題があれば、その組織が管理する全施設へ問題が広がりかねません。
ISPのパターンが明かすネットワーク構成
ISPの分布を見ると、正規のICSデバイスの多くが、企業データセンターのネットワークではなく、業務用インターネット回線を使用していました。特に多かったのはVerizon Business、AT&T Business、Cox Businessです。運用面では理解できる構成です。ビルディングオートメーションシステムは、IT部門ではなく施設管理チームが導入することが多く、搬入口や機械室で利用できる業務用インターネット回線に接続されます。
ここにセキュリティギャップが生まれます。ICSデバイスがデータセンターの内部または周辺にあっても、データセンターの高度なネットワークセキュリティの内側にあるとは限りません。別のチームが異なる優先順位で管理する、独自のインターネット回線を備えた別ネットワーク上に存在することがあります。サーバを守るファイアウォールは、冷却装置を守っているとは限りません。
マルチテナントの問題
コロケーション型データセンターには固有の課題があります。複数のテナントが施設を共有する場合、ビルディングオートメーションのセキュリティは誰の責任でしょうか。通常、HVACと電力システムは家主が運用し、テナントは自社のラックを管理します。BASがインターネットに公開されていても、環境障害によって自社機器が停止するまでは、テナント自身の問題とはみなされません。
主要なコロケーション事業者の周辺で多数のデバイスを確認しましたが、データセンター自体の機器か、隣接する商業施設の機器かは必ずしも判別できません。IP位置情報では、データセンターの機械室にあるBASコントローラと、隣のオフィスビルにあるコントローラを区別できず、どちらも似た座標に表示されます。
マルチプロトコルゲートウェイ:価値の高い標的
3,991件の固有IPアドレスのうち、143台(3.6%)が複数のICSプロトコルに応答しました。そのうち125台は、Fox/NiagaraとBACnetを同時に稼働させています。異なるビルディングオートメーションプロトコルを一つの管理インターフェースへ集約する、一般にNiagara stationと呼ばれる統合ゲートウェイです。
攻撃者にとって、こうしたマルチプロトコルデバイスは価値の高い標的です。一台を侵害するだけで複数のビル設備にアクセスできます。また、異なるオートメーション機器を結ぶ中枢として機能するため、ミッションクリティカルである可能性も高くなります。
施設の築年数は関係するか:築年数と露出率の相関
Business Insiderのデータセットには、公開された電力会社への申請と環境許可から得た、各施設の「FIRST PERMIT ISSUE YEAR」フィールドがあります。これにより、データセンターの築年数とICS露出の相関を分析できました。結果は直感に反するものでした。
一般には、サイバーセキュリティが重視される前に建設された古いデータセンターほど、公開されたビルディングオートメーションが多いと考えられます。しかし、データが示したのは別の実態です。
露出率は新しい施設ほど高く、2010年より前の施設では4.9%だったのに対し、2021年以降に許可された施設では13.1%でした。Shodanのデータによると、AIブームの最中に建設されたデータセンターは、レガシー施設と比べて周辺にICS露出が見られる割合が2倍を超えています。
新しい施設ほど公開される可能性が高い理由
このパターンには、複数の要因が考えられます。
- セキュリティより速度: AIインフラ建設のゴールドラッシュでは、設備を早期に稼働させる圧力がかかります。ベンダーの利便性を優先して、デフォルト設定のまま遠隔アクセスを有効にしてBASを導入し、セキュリティ強化を先送りしたまま忘れてしまう可能性があります。
- リモートファーストの設計: 現代のビルディングオートメーションは、当初から遠隔監視・管理を前提に設計されています。古いシステムは初期状態でエアギャップされ、インターネット接続は後付けであることが一般的でした。新しいシステムは、出荷時点からインターネット接続に対応しています。
- オートメーションの複雑化: AI時代のデータセンターでは、高密度GPUラックに対応するため、より高度な冷却・電力管理が必要です。自動化が増えれば、アタックサーフェスも広がります。
- 新規開発: 新しい施設の多くは、IT/OTセキュリティのガバナンスが確立していない地域に建設されます。施設管理チームに、既存組織のセキュリティポリシーが引き継がれていない場合があります。
- ビルディングオートメーションが主な露出経路です。信頼度の高いデバイスの81%をBACnetとFox/Niagaraが占めました。HVACや照明を制御するプロトコルは、電力網を制御するプロトコルよりもインターネットに公開されていることが多く、重工業向けSCADAよりBASの方が公開されやすいという、セキュリティ研究者の従来の見方を裏付けています。
- 地理的分布はインフラ投資と連動します。主要なデータセンター市場であるシリコンバレー、ニューヨーク、フェニックスで、公開デバイス数が最も多くなりました。データセンターが集中する場所には、公開されたICSデバイスも集中します。コンピューティングインフラへの投資と、物理インフラの露出には相関があります。
- レガシーベンダーが大半を占めます。Niagara/Tridiumだけで特定デバイスの28%に達しました。これらのプラットフォームは、セキュアバイデザインが一般化する以前に、相互運用性と遠隔アクセスを重視して設計されました。10年にわたる「まず接続し、セキュリティは後から」という考え方が生んだ技術的負債が、データに表れています。
- 公開デバイスの多くは、企業ネットワークではなく業務用ISP上にあります。ビルディングオートメーションは、データセンターのITシステムとは別系統のネットワーク基盤で動いています。サーバを保護する高度なファイアウォールやIDSからは、通常BASトラフィックを可視化できません。
意外な点
- 古いデータセンターより、新しいデータセンターの方がICSを公開している可能性が高くなりました。2021年以降に許可された施設の露出率は13.1%で、2010年より前の施設の4.9%を上回ります。AIインフラブームが速度を重視していることに、リモートファーストのBAS設計が組み合わさり、露出を減らすどころか増やしているように見えます。現代的な施設ほど安全だという前提を問い直す結果です。
- マルチプロトコルゲートウェイは、集中した価値の高い標的です。143件のIPアドレス(3.6%)が複数のICSプロトコルに応答し、そのうち125件はFox/NiagaraとBACnetを同時に稼働させています。これらの統合ゲートウェイは一台で複数のビル設備をつなぐため、一台を侵害すればビルディングオートメーション環境全体へアクセスできます。
- SCADAの露出は意外なほど少ないものの、必ずしも朗報ではありません。フィルターを通過した信頼度の高いDNP3デバイスはわずか4台でした。データセンターがインターネット公開型のSCADAを使用していない可能性もあれば、見えないプライベートネットワーク上にSCADAがある可能性もあります。証拠がないことは、存在しないことの証明にはなりません。 また、ポート20000におけるDNP3の誤検出率は90%であり、プロトコル固有のシグネチャを十分に出さない実デバイスが埋もれた可能性もあります。
- IP位置情報のクラスターは、共有インフラのリスクを示します。300台を超えるICSデバイスが同じGPS座標に対応する場合、ISPに登録された同じIPアドレスブロックを共有しています。複数組織のBASが同一のネットワーク基盤を経由している可能性があり、ISPやマネージドサービスの層で侵害が起きると、数十施設へ同時に影響するおそれがあります。
- Vertiv/Liebertが見つかったことは、データセンター自体のインフラが直接公開されている可能性を示します。一般的なBACnet HVACコントローラはどの商業施設にもあり得ますが、VertivとLiebertは、精密冷却装置(CRAC/CRAH)、UPS、配電など、データセンター専用に設計された機器を専門としています。インターネットからアクセス可能な16台は、周辺の建物だけでなく、データセンター自体のインフラが公開されている可能性を強く示します。
- ハニーポットの比率から、攻撃者が積極的に関心を持っていることが分かります。結果には、5種類を超えるICSプロトコルを同時に稼働させる、ハニーポットとみられる17件のIPアドレスがありました。ハニーポットもデータセンターで稼働する場合があるため、重なることは珍しくありません。ICS、SCADA、PLCが多数のポートを開くことはなく、データセンター付近で数百のポートを開いているサーバは、ハニーポットである可能性が高いと判断できます。セキュリティ研究者や脅威インテリジェンスチームは、攻撃者の行動を調べるためにこれらを展開します。データセンター近接検索にハニーポットが現れるのは、攻撃者が重要インフラ周辺のICSデバイスを積極的にスキャンしていることを示唆します。
- バナー情報は、標的選定に役立つ運用上の詳細を明かします。単に「デバイスが存在する」だけでなく、「Server Room 3-East」などのゾーン名、機器数、既知の脆弱性があるファームウェアバージョン、場合によっては保守連絡先まで開示されていました。攻撃者はBASの存在だけでなく、メーカー、モデル、パッチレベル、ソーシャルエンジニアリングの対象となる担当者まで把握できます。
- セキュリティギャップは、運用だけでなくアーキテクチャの問題です。ITとOTは単に担当チームが異なるだけではありません。物理的に分離されたネットワーク、別々のインターネット回線、監視体制、場合によっては異なる、あるいは存在しないセキュリティポリシーで運用されています。解決に必要なのは技術的な制御だけでなく、組織の変革です。ガバナンスの問題は、ファイアウォールだけでは解決できません。
物理インフラという盲点
意外な知見が示すのは、データセンターのセキュリティモデルが、境界はサーバラックで終わると想定しているという構造的な問題です。冷却、電力、環境制御などの物理インフラは、異なるチームが管理し、異なるネットワークに接続された別領域として扱われます。しかし、攻撃者から見れば、すべて同じ標的の一部です。冷却を停止させれば、DDoS攻撃と同様にサービスを停止させられます。
Vertiv、Liebert、Schneider Electricなど、データセンター専用製品を提供するベンダーが信頼度の高い結果に含まれていることから、問題は設定不備のあるBASを運用する隣接オフィスだけではないと考えられます。一部のデバイスは、データセンター自体のインフラを制御している可能性があります。アタックサーフェスは論理ネットワークを越え、物理設備にまで広がっています。
セキュリティ上の影響:実際に何が危険にさらされるのか
ビルディングオートメーションシステムは物理プロセスを制御します。アクセス権を得た攻撃者は、現実世界に影響を及ぼすことができます。図7は、公開されたBACnetコントローラを悪用してデータセンターの運用を侵害する、現実的な攻撃シナリオです。
運用妨害
BACnetコントローラの侵害に成功した攻撃者は、次のような操作で運用を妨害できます。
- CRAC/CRAH装置を停止させ、数分以内にサーバを過熱させることで、温度上昇による停止や恒久的なハードウェア損傷を引き起こせます。
- 温度や湿度の設定値を操作し、機器を仕様外の環境で稼働させて寿命を縮められます。
- 偽の火災警報を発生させたり、環境監視を妨害したりして、担当者が誤報を調査する間、運用を停止させられます。
- BASの認証情報を変更して施設担当者を締め出し、インシデントへの対応を阻止できます。
偵察と物理セキュリティ
公開されたBASデバイスは、バナーで施設の詳細を明かすことがあります。ゾーン設定からフロア構成を推測でき、機器一覧からセキュリティ態勢が分かります。保守スケジュールは人員配置のパターンを示し、設定データに担当者名が含まれる場合もあります。こうした情報は、物理侵入やソーシャルエンジニアリングに利用される可能性があります。
ICSランサムウェア:新たな脅威
ICS/OT資産を保有する組織にとって、ランサムウェアは新たな脅威から、現実に多発する危機へと変わりました。Dragosによると、産業組織を標的とするランサムウェア攻撃は2024年に87%増加し、1,693件が記録されました。産業システムを狙うランサムウェアグループは80に増え、2023年から60%増加しています。最も影響を受けた業種は依然として製造業で、被害の50%を超えています。また、事例の25%でOT拠点が全面停止しました。
近年の注目事例は、現実の影響を示しています。2024年2月のChange Healthcareへのランサムウェア攻撃(BlackCat)では、29億米ドルの損失が発生し、1億人分の患者記録が侵害されました。3か月後には、Ascension Health傘下の142病院が重要な医療連携システムから締め出されました。連邦施設向けのBASを製造するJohnson Controlsもランサムウェア攻撃を受け、YorkとTycoの子会社全体で業務に支障が出ました。水道分野では、2024年9月にカンザス州アーカンソーシティの水処理施設が攻撃を受け、FBIの捜査が開始されるなか、手動運転へ切り替えました。
アトランタ市の公共インフラを襲った2018年のSamSamランサムウェア攻撃は、都市サービスがランサムウェアで深刻な被害を受け得ることを示しています。複数部局のサーバが暗号化され、市は多くのシステムを停止して紙による業務へ戻らざるを得ませんでした。攻撃者の要求は、約51,000米ドル相当のBitcoinでした。市は最終的に、緊急のIT契約やセキュリティ改善を含め、復旧に1,700万米ドルを超える費用を投じました。データセンター運営者にとって、この事例はITシステムを標的とするランサムウェアが広範な運用妨害へ連鎖する可能性を示し、ITとOTの双方をラテラルムーブメントから守る重要性を浮き彫りにしています。
2024年には、ICS専用マルウェアの新種FrostyGoopとFuxnetが発見され、既知の総数は9種類となりました。なかでもFrostyGoopはOT環境を直接標的とし、氷点下のウクライナで地域暖房を妨害して、集合住宅600棟に影響を与えました。冷却と電力の継続供給に全面的に依存するデータセンターは、攻撃者にとって魅力的な恐喝対象です。夏の熱波の最中に冷却停止を突きつけるランサムウェアは、身代金を支払うよう強い圧力をかけます。拒否すれば、数百万米ドル相当の機器が熱で損傷する可能性があります。
本リサーチでは、データセンター周辺で信頼度の高いModbusデバイス(ポート502)を159台確認しました。FrostyGoopが直接狙うModbus TCPは、これらのデバイスが使用するものと同じプロトコルです。いずれかがデータセンターの冷却インフラへ直接接続されているかは確認できませんが、データセンターが稼働する地域に存在することは、FrostyGoop型の操作に利用され得るアタックサーフェスがあることを意味します。Dragosの研究者によると、世界ではインターネットに公開されたICSデバイスのうち46,000台超がModbusで通信しています。FrostyGoopのようなプロトコル固有の攻撃は、孤立した事例ではなく、システム全体に関わる脅威です。
公開デバイスの脆弱性評価
公開デバイスがもたらすリスクを定量化するため、バナー分析で特定したソフトウェアバージョンに既知のCVEを対応づけました。その結果、10社のベンダープラットフォームにまたがる53件の固有CVEが見つかり、CVSSスコアは最大10.0でした。9.8以上が7件あり、2件は米国サイバーセキュリティ・社会基盤安全保障庁(CISA)の既知の悪用された脆弱性(KEV)カタログに掲載されています。また、3製品系列はサポート終了済みで、今後のパッチ提供はありません。
最も危険な結果は、データセット内のRockwell Automation CompactLogix PLC 87台に影響するCVE-2022-1161(CVSS 10.0)です。攻撃者はこの脆弱性を利用して稼働中のPLCコードを変更しながら、エンジニアリングワークステーションには変更前の正規プログラムを表示させられます。Stuxnetが用いたものと同種のステルス攻撃です。前提となるCVE-2021-22681(認証回避)は、実際に悪用された証拠とともにCISAのKEVカタログへ追加されました。もう一件のCVSS 10.0の脆弱性CVE-2024-8525では、サポートが終了したバージョン7.0を実行するCarrier/Automated Logic WebCTRLデバイス64台に対し、ファイルアップロードを介した完全な未認証リモートコード実行が可能です。
データセット内のDelta Controls enteliBUSコントローラ237台はすべて、細工したBACnetパケットによる未認証リモートコード実行の脆弱性CVE-2019-9569(CVSS 9.8)の影響を受けるファームウェアを実行しているとみられます。パッチ提供から6年以上が経過しているにもかかわらずです。Tridium Niagara Frameworkはデータセット内で最大のプラットフォームで、2種類の検出方法を合わせて1,812台ありました。Foxプロトコル(ポート1911)で1,453台、BACnetポート(47808)のバナー分析で約359台を特定しています。このプラットフォームには17件のCVEがあります。そのうち434台はサポート終了済みのNiagaraAX 3.xを稼働させ、約1,370台のNiagara4は、QNXベースのJACEコントローラでroot権限のリモートコード実行を可能にする、最近公表された攻撃チェーン(CVE-2025-3943およびCVE-2025-3944)の影響を受けます。
対応が最も困難な可能性があるのは、CVE-2025-6185(CVSS 9.3)の影響を受けるObvius/Leviton製エネルギー監視デバイス70台です。LevitonはCISAへ回答しておらず、デバイス所有者にはパッチ、ベンダーの緩和策、修正時期の見通しがありません。さらに、Tridium NiagaraAX 3.x、Trane Tracer SC、Carrier WebCTRL v7.0という3製品系列の548台がサポート終了に達し、今後のセキュリティパッチは提供されません。
個別のCVEだけでなく、プロトコル自体にも根本的な脆弱性があります。BACnet(3,664台)、Modbus(159台)、Fox(1,453台)はいずれも設計上、認証と暗号化を備えていません。2024年に発見されたFrostyGoopマルウェアはModbus TCPを直接悪用し、氷点下のウクライナ・リヴィウで集合住宅600棟を超える地域暖房を妨害しました。データセット内のModbusデバイス159台はすべて、FrostyGoopが狙うものと同じプロトコルを使用しています。全体では、信頼度の高い6,300件のうち964件(15.3%)がCVSS 9.0以上の脆弱性を抱え、83.7%はそもそもインターネット公開を前提とせずに設計されたプロトコルを使用しているため、本質的に脆弱です。
これらのシステムが公開されている理由
- レガシー環境: 多くのBASは、サイバーセキュリティが優先事項になる前の10~20年前に導入されました。現在見られるNiagara 4.xの環境は、「セキュリティ」がログイン画面のパスワードを意味していた時代の設計から発展したものです。
- 組織のサイロ化: ビル設備はIT部門やITセキュリティ部門ではなく、運用部門に属する施設管理チームが管理します。チームごとに異なるポリシーとネットワークを使用し、脆弱性管理の方法も異なるか、そもそも存在しないことがあります。
- ベンダーの遠隔アクセス: 機器ベンダーは保守、トラブルシューティング、ソフトウェア更新のために遠隔アクセスを求めることがあります。最も簡単な方法はVPNではなく、固定IPアドレスとポートフォワーディングです。
- シャドーOT: 施設管理チームがIT部門を介さず、コントローラを業務用インターネットへ接続することがあります。問題が起きるまで、ITセキュリティチームからは見えないデバイスになります。賃貸施設では、テナントが建物のBASを管理できない場合もあります。HVACと電力システムは建物所有者が管理するため、テナントはそのセキュリティ態勢の良し悪しをそのまま引き継ぎます。組織は賃貸契約の一部としてBASセキュリティを評価し、建物所有者が最低限のセキュリティ基準を満たすよう求める必要があります。
- Shodanで「geo:[緯度],[経度],1」と自組織のIPアドレス範囲を検索し、自組織の露出を確認します。「org:[ISP名]」を使えば、自組織のネットワークに登録されたデバイスも検索できます。ただし、一部のShodanフィルターには有料契約が必要です。無償の代替手段として、bacnet-info、modbus-discover、enip-info、s7-info、fox-infoなど、ICS固有のNmapスクリプトで自組織のIPアドレス空間をスキャンします。攻撃者より先に可視性を確立することが、露出低減の第一歩です。TrendAI Vision One™ Cyber Risk Exposure Management(CREM)を併用すれば、従来の資産台帳に載っていない可能性があるBACnetコントローラ、Niagaraプラットフォーム、Vertiv/Liebert機器など、環境内でインターネットに面したICS/BASデバイスを継続的に検出できます。
- エッジルータとファイアウォールを調べ、ポート47808(BACnet)、1911(Fox)、502(Modbus)、44818(EtherNet/IP)を内部システムへ転送するネットワークアドレス変換(NAT)ルールがないか確認します。何年も前に設定され、そのまま忘れられていることがあります。
- BASのネットワーク構成を把握し、データセンターネットワークとは別に、ビルディングオートメーション専用のインターネット回線があるか確認します。別回線があるなら、それが盲点です。
短期的な対策
- BASデバイスを公開インターネットから切り離し、直接公開を解消します。遠隔アクセスが必要な場合は、VPN、Secure Shell(SSH)トンネル、ゼロトラストネットワークアクセス(ZTNA)を導入します。恒久対応を進める間は、TrendAI Vision One™の侵入防御システム(IPS)ルールによる仮想パッチを有効化し、パッチ未適用のTridium Niagara、Schneider Electric、BACnet実装に影響する既知のCVE(CVSS 7.5~10.0)からリアルタイムで保護します。
- 公開デバイスのデフォルト認証情報をすべて変更します。Niagara stationや多くのBACnetコントローラは、既知のデフォルトユーザ名とパスワードを設定した状態で出荷されます。デフォルト認証情報のまま公開されたデバイスには、脆弱性の悪用すら不要です。初期値を知っているだけでアクセスできます。すべての公開デバイスに強固な認証を適用し、TrendAI Vision One™ Vulnerability Managementで、未修正CVEに加えてデフォルトまたは弱い認証情報を使用しているシステムを特定します。
- テナントの場合は、家主またはコロケーション事業者に連絡します。ビルディングオートメーションは自社のシステムでなくても、障害が起きれば自社の問題になります。事業者にBASのセキュリティ態勢を確認してください。
戦略的な変更
- 施設管理チームをセキュリティ管理の対象に加え、ITとOTのガバナンスを統合します。BASを資産台帳、脆弱性管理、セキュリティ監視プログラムに追加し、リスク評価にはHVACと電力システムを含めます。外部のHVAC事業者も攻撃経路になり得ます。4,000万件の決済カード情報が侵害された2013年のTarget情報漏洩は、盗まれたHVACベンダーの認証情報が侵入口でした。HVACおよびBASの請負業者にも、自組織のセキュリティ基準を満たすよう求めます。
- 遠隔アクセスにはVPN接続を必須とするなど、ベンダー契約にセキュリティ要件を盛り込みます。「固定IPアドレスとポートフォワーディング」を許容可能な構成から除外し、新規機器の提案依頼書(RFP)にもBASセキュリティ要件を含めます。
- OTネットワークをITネットワークおよびインターネットから隔離し、ネットワークセグメンテーションを実装します。ファイアウォールやDMZアーキテクチャでゾーン間の通信を制御し、Purdueモデルへの準拠を回復するとともに、インターネットからOTへの直接経路を排除します。TrendAI Vision One™ Network SecurityとTrendAI Vision One™ XDR for Networksで、OTネットワーク内の東西トラフィックを監視します。
- BACnetやModbusの異常通信を検出できる、OT対応のセキュリティプラットフォームを導入します。対象には、本リサーチで確認した159台のModbusデバイスを狙うFrostyGoop型の操作も含めます。TrendAI Vision One™ Vulnerability Managementでリスクスコアに基づいてパッチ適用の優先順位を決めます。TrendAI Vision One™ Threat Intelligence Hubは、ICS固有のマルウェアシグネチャ、既知CVEの悪用パターン、侵入の痕跡(IoC)を環境全体から検索するハンティングクエリを提供します。TrendAI Vision One™ Workbenchでは、IT/OT境界をまたいでアラートを関連づけ、公開BASデバイスからレベル1~3のシステムへのラテラルムーブメントを調査できます。
セキュリティチーム向け
- 施設管理チームへ能動的に働きかけてOT環境を把握し、OTをセキュリティの対象範囲に加えます。アタックサーフェスは、資産台帳に記載されている範囲より広くなります。TrendAI Vision One™ CREMでITとOTの資産を継続的かつ統合的に可視化し、公開デバイスがチーム間の隙間に落ちないようにします。
- OTをインシデント対応計画に含めます。BASが侵害された場合に何が起き、誰へ連絡し、施設担当者がシステムを隔離できるかを確認してください。実際に必要になる前に演習します。TrendAI Vision One™ Workbenchは、IT/OT境界をまたぐアラートを関連づける統合調査コンソールです。既知のICS脆弱性に対する悪用試行を検出し、侵害されたBASデバイスからのラテラルムーブメント経路を追跡できます。
- 脅威インテリジェンスとハニーポットのデータを使い、ICS固有の脅威を早期に検知します。本リサーチでは、データセンター周辺に17のハニーポットが見つかりました。すでに誰かがこのアタックサーフェスを監視しています。TrendAI Vision One™ Threat Intelligence HubでFrostyGoopなどICS固有のマルウェアを追跡し、ビルディングオートメーションプラットフォームを狙うCVEの悪用パターンを監視します。また、インターネットからOTへの予期しない接続やModbusプロトコルの異常について、Workbenchのアラートを設定します。
- 公開デバイスの81%をBACnetとFox/Niagaraが占め、データセンター周辺ではビルディングオートメーションが主な露出経路であることを確認しました。
- 2021年以降の新しいデータセンターの露出率は13.1%で、2010年より前の施設の4.9%を上回り、AIインフラブームとOT露出の増加に相関が見られます。
- 143台のマルチプロトコルゲートウェイ(3.6%)が、一つのインターネット公開エンドポイントを介して複数のビル設備を橋渡ししています。
- ビルディングオートメーションシステムは、データセンターのITセキュリティ制御の対象外にある、別のインターネット回線を持つ並列ネットワーク上で稼働しています。
- Tridium Niagara、Schneider Electric、BACnet実装など、データセットで確認した主要プラットフォームは、CVSS 7.5~10.0の既知の脆弱性の影響を受けます。
BACnetとNiagaraのデバイス、プロトコル、プラットフォームは、HVAC、配電、環境監視を制御します。今回多数見つかったことから、データセンターの稼働を支える物理インフラが、運営者の認識以上に公開されていることが分かります。サーバを守るファイアウォールが、建物を冷却する冷却装置まで守っているとは限りません。
状況を認識することが、改善への第一歩です。何が、なぜ公開されているのかを理解すれば、組織はリスクを減らし、データセンターの稼働を支える物理インフラを守るために、的を絞った対策を取れます。脆弱性を特定し、広く伝えることが本リサーチの主な目的でした。
どれほど強固な防御でも、執拗な攻撃者に対して絶対に破られないとは言えません。防御の基本原則は、侵害を前提として対策を講じることです。ICSの露出が問題であるかどうかは、もはや問いではありません。データが明確に示しています。問われているのは、これから何をするかです。
本リサーチの詳細は付録をご覧ください。
参考記事
An Invisible Attack Surface: Thousands of Industrial Control Systems Exposed Near Data Centers
By Stephen Hilt, Numaan Huq
翻訳:与那城 務(Platform Marketing, Trend Micro™ Research)