Artificial Intelligence (AI)
戦力を増幅するAI:2026年脅威インテリジェンスフォーラムからの示唆
AIはサイバー攻撃のスピードと巧妙さを高めていますが、新しい技術を強固なセキュリティ基盤、ガバナンス、そして連携と組み合わせる組織にとっては、大きな機会ももたらします。
2026年7月16日、ワシントンD.C.の米国商工会議所に政府と産業界のサイバーセキュリティリーダーが集まり、「2026年脅威インテリジェンスフォーラム」が開催されました。TrendAI™およびCarahsoftとの共催による本イベントは、今年で6回目を迎えます。官民のセキュリティリーダーが向き合ったのは、ただ一つのテーマでした。人工知能(AI)がサイバー脅威の情勢を塗り替え、攻撃側と防御側の双方にとって戦力を増幅する存在(フォースマルチプライヤー)となっており、協調した対応が必要かつ急務である、というものです。
各パネルディスカッションやファイヤーサイドチャットを通じて、明確なコンセンサスが浮かび上がりました。サイバー脅威の量と速度は加速し、初期アクセスから悪用までの時間は短くなり、AIは攻撃ライフサイクルのあらゆる段階で攻撃者の参入障壁を下げています。しかし、攻撃能力を民主化するこの同じ技術は、強固な基本対策、官民連携、規律あるガバナンスと組み合わせれば、防御側にも真の機会をもたらします。
開会挨拶:一変した情勢
米国商工会議所のサイバー・宇宙・国家安全保障政策担当シニアバイスプレジデントであるChristopher Roberti氏は、サイバーインテリジェンスを取り巻く情勢がいかに劇的に変化したかを語り、フォーラムを開会しました。同氏はAIを利用した脅威環境をこの日のテーマとして位置づけ、現代の脅威情勢を研究する必要性がかつてないほど高まっていると強調しました。また、トランプ政権のAI大統領令「EO 14409」(英語)をはじめとする最近の政府の取り組みに言及し、これをフロンティアAIモデルに関する協力と脆弱性クリアリングハウスの基盤を築くものと評しました。さらに、連邦ネットワークを保護するための「拘束的運用指令(BOD)26-04」(英語)に基づく、サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)の取り組みも紹介しました。
戦力の増幅:官民のサイバー防御におけるAI活用
最初のパネルには、ホワイトハウス国家サイバー局長室(ONCD)インテリジェンス担当シニアディレクターのWill Loucks氏と、Amazon Web Services(AWS)セキュリティ担当バイスプレジデントのHart Rossman氏が登壇し、Roberti氏と対話しました。
Loucks氏は、何が変わり、何が変わっていないのかという観点から課題を整理しました。脅威がなくなることはなく、サイバーは今も国家安全保障と経済的繁栄に不可欠な要素であり続けています。一方、この1年で顕著に変化したのは、脅威の量と速度そのものです。
- 脆弱性の数の増加
- 初期アクセスから悪用までの時間の短縮
- 脅威ライフサイクルのあらゆる段階の加速
Loucks氏は、サイバーツールのコモディティ化によって、かつては収益化が難しかった能力にも市場が生まれたと警告しました。AIは触媒として機能して高度な能力へのアクセスを民主化し、一度の失敗も許されない防御側に多大な圧力をかけています。
Rossman氏は、攻撃者は常に自らの目的を追求するものであり、問題が影響を及ぼす前に発見・解決されて失望する顧客はいない、と述べました。問うべきは、この変化の速度をいかに防御側の優位へと転じるかだと同氏は主張します。AWSでは1日あたり約400兆件のネットワークフローが転送されています。この規模になると、人間のアナリストでは到底処理しきれないパターンもAIによって検出できるようになり、洪水のようなデータを、人間の判断に委ねられる実践的な作業へと変えられます。
Loucks氏は、サイバーセキュリティは本質的に帰納的であり、過去に観測されたものに縛られるが、AIによって脅威をより能動的に理解できるようになると指摘しました。同氏はこれを政権のサイバー戦略に結びつけました。同戦略の第1の柱は、米国のインフラを攻撃する者に対する強力な抑止力を生み出すことで、攻撃者の行動そのものを変えることに焦点を当てています。
AIを活用した防御技術では、米国企業が先頭を走っています。最近のAI大統領令の実施に関しては、産業界との緊密な連携、BOD 26-04に基づくCISAのパッチ適用要件、そして新たなクリアリングハウスについて説明しました。このクリアリングハウスは、AIを活用して堅牢なセキュリティを構築し、重複した脆弱性スキャンを減らし、民間部門に実用的な脅威インテリジェンスを届けることを目的としています。
サイバーのグラウンドトゥルース:検証済みで実用的なインテリジェンスの確立
2つ目のパネルでは、TrendAI™の脅威インテリジェンス担当バイスプレジデントであるJon Clayがモデレーターを務め、防御側が検証済みで実用的なインテリジェンスをどのように確立できるかを掘り下げました。登壇したのは、CISAのエグゼクティブアシスタントディレクター代行であるChris Butera氏、Juvareのエグゼクティブバイスプレジデント兼最高情報セキュリティ責任者であるBryan Kaplan氏、そしてTrendAI™の脅威インテリジェンス・AIセキュリティ担当バイスプレジデントであるTom Kellermannです。
攻撃者によるAI利用の実態について、Butera氏は、ソーシャルエンジニアリング自体は新しいものではないが、巧妙さを増していると指摘しました。Kaplan氏は、攻撃者がAIを使って複数の脆弱性を連鎖させるようになった今、組織は自社のソフトウェアだけでなく、自社のスタックを構成するあらゆるベンダーにも目を配らなければならないと警鐘を鳴らしました。
議論のテーマの一つは、より賢いリスクベースのパッチ適用の必要性でした。Butera氏は、BOD 26-04の「がむしゃらにではなく、賢くパッチを当てる(patch smarter, not harder)」という考え方を説明しました。その判断ツリーは4つの属性、すなわち、脆弱性がインターネットに接続されたシステム上にあるか、既知の悪用された脆弱性(KEV)であるか、全体としての影響度はどの程度か、そして悪用を自動化できるか、に基づいて構築されています。
CISAのBODは、これらの基準のうち少なくとも3つを満たす脆弱性について、3日以内のパッチ適用を義務づけています。該当する脆弱性は全体のごく一部にすぎないため、このアプローチはリソースの優先順位づけに役立ちます。Butera氏はまた、エッジデバイスがもたらす危険性に関する取り組みにも言及しました。エッジデバイスは通常、EDR(Endpoint Detection and Response)を実行できず、アイデンティティサービスと統合されていることも多いため、国家支援型の攻撃者にとって格好の潜伏場所となっています。
パネルの議論は、基本的なサイバーハイジーンとネットワークの可視性、仮想パッチ、継続的な脅威ハンティング、OT(制御技術)環境のネットワークセグメンテーションといった、なじみ深くも不可欠な原則へと収斂しました。最後にKellermannは、攻撃者同士の「悪の枢軸」的な連携に対抗するには、同じだけの決意を持った官民パートナーシップが必要だと呼びかけました。
AI標準:AI標準策定における現実のすり合わせ
米国商工会議所のサイバー・宇宙・国家安全保障政策担当バイスプレジデントであるMatthew Eggers氏とのファイヤーサイドチャットでは、米国国立標準技術研究所(NIST)のAI・サイバーセキュリティ主任研究員であるMartin Stanley氏が、AIとサイバーセキュリティの交差領域における同機関の取り組みを紹介しました。
Stanley氏は、3つの主要な取り組みを挙げました。第1に、AI向けのサイバーセキュリティフレームワーク(CSF)プロファイルです。これは、AIをサイバー脅威からどう守るか、AIを使っていかに脆弱性を減らし効果を高めるか、そしてAIを利用した攻撃からどう防御するかを扱います。第2に、NIST SP 800シリーズのカタログをAIシステムに適用するためのコントロールオーバーレイで、AIの種類ごとにオーバーレイが用意されます。第3に、重要インフラ向けのAIリスクマネジメントフレームワークのプロファイルです。
Stanley氏は、技術専門家を招集できることこそがNISTの強みだと述べ、標準はどうしても後追いになりがちであると認めつつも、協働のプロセスそのものが最終成果物に劣らない価値を生むと強調しました。同氏は、NISTが管理する米国国家脆弱性データベース(NVD)にも触れました。さらに、2025年に標準化関連団体とともに始めた「ゼロドラフト(zero-drafts)」と呼ばれる取り組みも紹介しました。これは、完成度の高いたたき台を軸にステークホルダーを結集するもので、AIのテスト・評価に関する作業や、モデルとデータの開示に関する作業が含まれます。
連邦政府におけるサイバーセキュリティ向けAI政策の現状
行政管理予算局(OMB)の連邦サイバーセキュリティ担当ブランチディレクターであるNicholas Polk氏は、Venable LLPのサイバーセキュリティサービス担当マネージングディレクターであるRoss Nodurft氏とともに、連邦政府のAI政策について議論しました。政権のメモランダムM-25-21を踏まえ、連邦CIO(最高情報責任者)の最大の関心は、効率化を推進し職員をより高度な業務に振り向けるためにAI導入を加速することにあると、Polk氏は述べました。
これはすなわち、FedRAMP(連邦リスク・認証管理プログラム)と緊密に連携して官僚的な障壁を取り除き、各省庁が意味のあるスピードで、リスクに基づく的確な判断を下せるようにすることを意味します。Polk氏は、指針となる原則として「政府がある省庁のために一度行った作業を、二度繰り返す必要があってはならない」という考え方を紹介しました。同氏は、600万台を超えるエンドポイント全体でセキュリティ上の前提を継続的に検証する手段として、自動テストとAIレッドチーミングを重視しました。このアプローチを、インシデント発生前(レフト・オブ・ブーム)の段階でシステムを検証できる魅力的な機会と表現しつつ、コンプライアンスやベンダーによる認証にも引き続き役割があると認めました。
連邦政府全体の保護については、政府のサイバー態勢を示す一元的な情報源として、CDM(継続的診断・緩和)プログラムを挙げました。同プログラムは、かつてのスプレッドシートによる管理に代わって、自動化されたパッチ追跡と、各省庁とCISAの双方がアクセスできる省庁別ダッシュボードを提供します。コストと効率については、長年のうちに4つのEDR製品を併用するようになった省庁の例を挙げながら、ツールセットを整理し、重複する技術を排除する取り組みを説明しました。最近発出されたロギングに関するメモランダム「M-26-14」(英語)については、刷新された国家安全保障システム委員会を通じて、ミッション上の必要が許す限り政策の調和を図る作業を進めていると述べました。
TrendAI™脅威インテリジェンスアップデート
フォーラムの締めくくりとして、TrendAI™の脅威インテリジェンス担当バイスプレジデントであるJon Clayが、脅威インテリジェンスブリーフィングを行いました。ブリーフィングは、世界中の500名を超えるTrendAI™リサーチャーの成果を集約した、隔月発行の脅威インテリジェンスレポートに基づくものです。同レポートは状況分析と技術分析を融合させ、サイバーの領域にとどまらず、脅威環境を形づくる軍事・貿易・地政学の動向にも目を向けています。
Clayは、中国、北朝鮮、ロシアに関する具体的な脅威インテリジェンスを概観するとともに、分野横断的なトレンドをいくつか挙げました。AIの導入はあらゆる場所で加速していること、攻撃者は今後、AIで自動化した攻撃をダークウェブで販売するようになること、攻撃者が被害者自身の環境を逆手に取るようになり、信頼されたインフラが新たな隠れ蓑になりつつあること、そしてMaaS(マルウェア・アズ・ア・サービス)の広がりによって、アトリビューション(攻撃者の特定)が次第に困難になっていくことです。
連邦政府の防御担当者に向けたClayの提言は、次のとおりです。ネットワーク固有のリスクスコアに基づいて、最も効果の大きいCVEにパッチを適用すること。クラウドサービスとランタイムの悪用を監視すること。OT/ICS(制御技術・産業制御システム)の露出を減らすこと。アイデンティティと人材の防御を固めること。そして、検知にとどまらず、能動的にハンティングを行うことです。
まとめ
2026年脅威インテリジェンスフォーラムが描き出したのは、マシンスピードで動く脅威情勢の姿でした。そこではAIが、攻撃者に力を与えると同時に、防御者にも武器をもたらします。各セッションを通じて浮かび上がった処方箋は明確です。AIを活用した防御を、リスクベースのパッチ適用、ネットワークの可視性、アイデンティティ防御の強化、能動的な脅威ハンティングといった規律ある基本対策と組み合わせること。そして、その全体を、真に実効性のある官民パートナーシップに根づかせることです。
参考記事
AI as Force Multiplier: Takeaways from the 2026 Threat Intelligence Forum
By Zachary P. Martin, Director of Cybersecurity & Privacy Services, Venable LLP
翻訳:与那城 務(Platform Marketing, TrendAI Research)