DXで注目されるクラウドリフトとは?クラウドシフトとの違いも解説

 DXで注目されるクラウドリフトとは?クラウドシフトとの違いも解説

公開日
2023年4月24日

業務のデジタル化によってビジネスモデルを変革し、企業の新たな価値を生み出すDXが進んでいます。同時に、既存のシステムをオンプレミスからクラウド環境へ移行する「クラウドリフト」の動きが目立つようになりました。

この記事では、IT資産の運用・管理をよりスムーズにし、DXを加速させるクラウドリフトについて、クラウドシフトとの違いを含めて解説します。

クラウドリフトとは?

従来のITシステムは、サーバやネットワーク機器、あるいは業務用アプリケーションなど、ハードウェアとソフトウェアを自社で保有し管理するオンプレミスが主流でした。
一方、クラウドは、インターネット経由でサーバなどのITリソースや、アプリケーションを使用する形態です。クラウド事業者が用意した環境やサービスを利用するため、保守・運用を自社で行う必要がありません。

クラウドリフトとは、従来のオンプレミスからクラウドに移行する際に、既存のシステムをそのまま移行(リフト)するスタイルのことです。移行後に改修すべき点が見つかれば、都度手を加えて最適化します。今あるシステムをそのままクラウド環境に運ぶイメージなので、「DXに向けてすぐにクラウド化したい」といったときにスピーディーに移行できます。

クラウドリフトとクラウドシフトの違い

クラウドリフトと同じく、クラウド化の流れの中でよく聞く言葉に「クラウドシフト」があります。クラウドシフトは、クラウドリフトと何が違うのでしょうか。

最大の違いは、クラウドリフトが「そのまま」オンプレミスのシステムやアプリケーションをクラウドに移行するのに対し、クラウドシフトはクラウド用に新しく構築、または導入する点です。クラウドシフトの場合、既存のオンプレミスのシステムやアプリケーションは廃棄して一新されることになります。

クラウドリフトとクラウドシフトは、どちらも近年になって重要度が増し、注目されるようになりました。これは、不確実な時代の中で競争優位性を確保するべく、DXに取り組む企業が増えており、多様な働き方に柔軟に対応できるシステム基盤の整備が求められているからだと考えられます。
既存のIT資産をクラウド化することは、成果を出すDX推進の第一歩だといえるでしょう。

クラウドリフトのメリット

既存のシステムやアプリケーションをそのままクラウド環境に移行させるクラウドリフトには、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここで、クラウドリフトのメリットを整理しておきましょう。

既存のシステムを想定するため、設計や移行が比較的簡単

クラウドリフトの最大のメリットは、既存のシステムをクラウド化するにあたって、設計や移行が簡単なことです。基本的には既存のシステムをそのまま利用するため、システムやアプリケーションの設定もほぼ必要なく、少ない手間と時間で移行できます。

導入のコストを抑えられる

クラウドリフトでは、オンプレミスのように物理的なサーバやハードウェア機器を購入する必要がなく、初期費用が抑えられます。クラウドシフトのようにシステムやアプリケーションを開発する手間がかからないため、人的コストも最小限で済むでしょう。

物理的なスペースや対応が不要になる

オンプレミスからクラウドに移行することで、物理的なサーバなどのハードウェアが不要になり、スペースが空きます。サーバを置くセキュリティルームを設置していた場合、スペースが空くとともに、その分の費用もかからなくなるでしょう。
メンテナンスはクラウドサービスの事業者に一任できるので、障害対応や故障時の交換作業に時間を取られることなく、担当者の人的コストをより付加価値の高い作業にあてられます。

システムの拡張・縮小が容易

クラウドリフトによって、システムの拡張・縮小が容易になるというメリットもあります。
オンプレミスでシステム容量を増減する場合、ハードディスクの増設・削減やサーバの引越しといった作業が必要で、導入や構築に費用と時間がかかります。クラウドの場合は、オンラインでプランを変更するだけで容量を拡張することが可能です。状況が変わって容量を減らしたい場合も、導入側の手間はほとんどかかりません。

BCP対策ができる

クラウドリフトはBCP対策にも有効です。BCPとは、自然災害やテロ攻撃などに際して事業資産の損害を最小限にとどめ、中核事業を継続あるいは早期復旧するための事業継続計画のことです。2001年のアメリカ同時多発テロを契機としてその重要性が広まり、災害大国である日本でも重視されるようになりました。
クラウドサービスは、災害に強い地域の頑強な施設にサーバを設置しているため、自社でサーバを保管するよりも、機器の破損やデータ損失のリスクを低減できます。建物が崩れたり、停電したりして社内で仕事ができない場合に、インターネット環境さえあれば外から業務を継続できるのも、クラウドならではのメリットです。

クラウドリフトの注意点

クラウドリフトの注意点

利便性が高く、メリットが多いクラウドリフトですが、オンプレミスからの移行にあたっては注意点もあります。以下でクラウドリフトの際に注意したいことを紹介します。

既存システムの課題を把握する

クラウドリフトは、基本的には従来のシステムをそのまま使うものです。OSやアプリケーションのアップデート、システムの保守運用作業などは、移行後も行う必要がある点に注意してください。
また、移行後にシステムの改修を行うのは費用も手間もかかります。既存のシステムに不足やミスがあれば、クラウドシフトの前に改善しておくことをおすすめします。

クラウドサービスを慎重に選定する

クラウドリフトに際して、移行するクラウドサービスの選定は非常に重要です。クラウドリフトは既存のシステムをそのまま移行しますが、移行後に構成を変更したり、改修したりすることもあります。そのため、柔軟に変更や改修ができないサービスでは運用の負荷が大きくなってしまいます。自社に合った利用ができるか、状況に合わせた対応ができるか、必ずチェックしましょう。

社内への周知を徹底する

クラウドリフトは既存システムをそのまま移行するといっても、オンプレミスからクラウドになることで、作業方法やアクセス方法は変化するでしょう。オンプレミス環境で長く作業してきた従業員には、抵抗があるかもしれません。スムーズに変化を受け入れられるよう、「なぜ移行するのか」「移行によってどのようなメリットがあるのか」といった移行の重要性と有用性を説明しておく必要があります。マニュアルやガイドラインの策定、説明会の実施などをおすすめします。

セキュリティ対策を行う

クラウドリフトで移行するデータは、企業経営の根幹に関わる機密情報を多く含んでおり、情報漏えいなどのインシデントが発生すれば、社会的な信用を失うことになりかねません。ネットワーク攻撃や脆弱性、マルウェア感染、不正なシステム変更などから防護し、もし起こった場合は即座に検出して対応する必要があります。

また、クラウド環境ではコンプライアンス管理が困難になる可能性があります。クラウドサービスを利用する際にコンプライアンスに準拠していても、提供者側が変更を加えればその時点で準拠しているとは限りません。

安全にクラウドリフトを行うためには、多層的で安全性の高いセキュリティ対策を追求してください。単にシステムを移行するだけでなく、ネットワークからアプリケーション、OSまで多様な要素のセキュリティを確立できて初めてクラウドリフトの成功といえます。コンプライアンスに問題があればすぐに対応できるように、クラウドサービスのインフラを継続的に監視する必要もあるでしょう。

強固なセキュリティを前提に、クラウド移行を進めよう

業務効率を向上させ、ビジネスを拡大するといった経営的な戦略を実現するため、アマゾン ウェブ サービスのようなクラウドサービスを活用する動きは広がる一方です。ただし、クラウド移行する際には、システム設計とセキュリティ対策が非常に重要になり、知っておくべきことや、やっておくべきことが多数あります。オンプレミスからAWS環境への移行時に、押さえるべきセキュリティのポイントとは何でしょうか。まずクラウド移行時に行うべき「はじめの一歩」を こちらで解説しています。これからクラウド移行される方も、すでに移行されている方も、自社のセキュリティの強化のためにぜひご活用ください。

監修

福田 俊介

福田 俊介

トレンドマイクロ株式会社 ビジネスマーケティング本部
ストラテジックマーケティンググループ
グループ長 シニアマネージャー

IPA 情報処理安全確保支援士(第000893号)、AWS Certified Solutions Architect – Professional保有。
約10年間クラウドセキュリティ領域およびエンドポイントセキュリティ領域に従事、クラウドの最新アーキテクチャに対応するセキュリティ戦略を立案、市場啓蒙を実施。これまでのセミナー登壇は100回を超える。専門領域は「クラウド」「サーバ」「仮想化」「コンテナ」「脆弱性」「EDR」「XDR」。

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